ご家族の英断に拍手👏 -犬の口腔鼻腔瘻 –
久しぶりのブログの更新です。
特に最近、ブログを読みましたと声をかけていただくことが多くなりました。昨日も数件ありました。
ありがたいお声を頂きながら、しばらく更新ができていませんでした。反省。
時間は作ればできるわけですからね。そして、このブログを書くのは、いろいろな思いを文字に乗せるということで、楽しみながら進めることができています。普段の診療時間にはあまり話せないことをゆっくりと書いています。
歯周病については、これまでもいくつかの記事を書いていますが、このことで悩んでいらっしゃるどうぶつのご家族が多い印象を受けています。
今回来院されたワンコの飼い主さんからの初めのお問い合わせは、当院で歯科治療ができるかどうかについてでした。動物病院でできる歯科治療は、実は一律ではありません。
当院で行なっているのは、全身麻酔を行なって、歯のX線検査(レントゲン)、歯石除去、キュレタージ、ルートプレーニング、ポリッシング、そして、必要に応じた抜歯や歯肉の縫合です。ときに、口腔鼻腔瘻(こうくうびくうろう)というものがあると、犬歯を抜歯して歯肉に縫合を行います。そして稀には、欠けた歯の修復を行います。
これらのことが全て行われている動物病院は、実は多くはありません。
まず、歯科専用のX線検査装置がないところが多いようです。しかし、歯石除去だけを行うところは、ある程度の数あると思います。もしかすると、ほとんどの動物病院では、歯石除去だけが行われているかも知れません。
犬や猫の歯科治療ではどのようなことをするのが正のかをご存知のご家族の方は少ないはずです。キュレタージ?ルートプレーニング?だと思います。これらの処置の詳細は、割愛しますが、歯周病治療ではとても大切な処置です。
そして、論外なのは、ときどきお話を聞くことのある無麻酔での歯石除去です。上のいくつかの処置のうちで、無麻酔で行えるのは、歯石除去の一部です。無麻酔ですと歯石除去すら完全にはできませんし、基本であるX線検査はまず不可能でしょう。
そのようなことで、歯科治療ができるかどうかの回答は、YesかNoでは難しいことが多いものです。
来院されたワンコとご家族は、歯科治療で必要な麻酔のことで悩んでいらっしゃいました。
ときに、全身麻酔は絶対にNGというご家族もあります。しかし今回のご家族は、そうではありません。いろいろとお話を伺いますと、ご家族は治療に対して積極的なのですが、かかりつけの先生がとても慎重な方で、麻酔に関する事前検査で異常値があると、先生の方からストップがかかるようでした。
ご家族は、麻酔に対してNGではありませんが、やはり心配されています。当然のことです。そこにホームドクターのストップがあると、もう一度心の準備をし直すことは極めて難しくなります。
ワンコさんの症状は、鼻血です。原因は口腔鼻腔瘻というもので、抜歯や歯肉の縫合を行わないと、このままでは、現在時々見られている鼻血はずっと続くことになります。
いろいろとお話をして、当院で歯科処置を行うことになりました。
ご家族の方の心配はよくわかりますし、ホームドクターがストップしたことも理解はできます。高齢のワンコですから、ホームドクターもいろいろと気を使われたのでしょう。しかし、このままではこのままですし、状況は悪化してくるはずです。
当日は、麻酔をかける前にできる歯科検査を行い、最終的には全身麻酔を行なってから細かい口腔検査を行います。そこで治療に入ります。
麻酔の導入はかなりゆっくりと行いました。特別に麻酔モニタの波形が乱れることもなく、呼吸も心拍も安定したまま歯科処置に進むことができました。口の中の詳細を検査しますと、右上の犬歯に起こっている口腔鼻腔瘻が鼻血の原因だとわかりました。しかし、左上の犬歯にも大きな歯肉ポケットがあり、これも今は大丈夫でも早い段階で鼻血の原因になりそうです。
犬歯は犬の象徴でもありますし、抜歯となるとご家族の皆さまは心を痛めますので、治療と割り切っても予防的に抜歯するのは躊躇してしまいます。
麻酔処置中でしたが、ご家族の方とお電話で相談し、結果として抜歯することにしました。
ご家族の方は今回の麻酔と歯科処置について、長く悩まれていらっしゃいます。麻酔が必要だとはわかりながら、大丈夫かしらと心配され、そして、苦渋の決断をされた後で、ホームドクターからのストップです。この一連の流れをもう一度行うとなりますと、心的疲労はいかばかりでしょうか。そう考えますと、今回の歯科処置の中で予防的な犬歯の抜歯は、良い決断だったと思います。
無事に歯科処置が終わり、麻酔からの覚めもとてもスムーズで、処置が終わってから数分後に起き上がった後は走って散歩にでも行けそうな、そんな印象でした。まあ、安静にしてもらいましたけど。(笑
夕方のお迎えの時間になり、とても元気なワンコをご覧になったご家族の方は、安心されたようでした。年齢や、処置の難しさを考えますと、悩むところですが、このままではこのままですので、どこかに英断が求められる場面でした。
ご家族の想いに、笑顔でお応えして、最後にご家族に笑顔になってもらえると、これ以上に嬉しいことはありません。
今回は、本当にご家族の方に勇気ある決断に拍手でした。