目の周りが赤くなりました。 - 犬のマイボーム腺炎 –
そろそろ花粉症の季節のような気がしてなりません。
この時期は、まだまだ寒いですので、風邪かな?違うかな?もしかして花粉症かな?という感じから始まりますから、わかりにくいですよね。
そして僕は今年の花粉症が始まったかも知れません。残念ながら。
目の周りが1周ぐるっと赤くなった子が来院しました。両目ともにです。
ジーと目を見ますと、まず眼球には問題はなさそうです。
少しだけ目ヤニがあるくらいです。
そして目の周りは真っ赤に腫れていて、とても痒そうで、お父さんに聞きますと、擦っているとのことで、おそらく痒いのだと推察できます。
また、瞼の裏を見ますと、真っ赤になっていて、痛々しい感じまします。
お父さんに、マイボーム腺炎ですよとお伝えすると、少しだけにっこりされて、インターネットで調べましたとのことでした。大正解!
治療方法も調べられたようですが、切開するんですよね?と言われましたが、今回は切開するような病変は認められず、まずはお薬で治療することにしました。
眼球を涙で覆うのは、涙腺の役割で、さらにあぶらで覆うための皮脂腺があり、これがマイボーム腺です。ここに起こる炎症がマイボーム腺炎です。
通常は抗生物質とステロイドで治療をすることになっています。まぶたの一部にニキビのようにポツッとできることもありますし、目の周囲にぐるっと、しかも今回のように両目にできることもあります。
お父さんとお母さんに連れられて来院したワンコは、とっても大人しく、目をじっくりと見せてくれます。よくご両親揃ってお見えになることが多いですね。
このワンコは、実は他の動物病院で診察を受け、よくならないということで来院されました。
このようなとき、いろいろと考えることがあります。
うちに来院された方にも、同様に、よくならないということで他の動物病院に転院される方もあるだろうから、丁寧に診察をしなければならないというのが第一番目です。ここには「失望」があり、かわいい我が子(ワンコ)の病気が治らないことが辛く、できるだけ早くに解決してあげたいという「思い」、ここの動物病院なら治してくれるだろうという「期待」、初めての動物病院でもしかしたらもっと良くない治療がなされないだろうかという「心配」、どのような獣医師やどうぶつの看護士が対応してくれるのだろうかという「不安」など、いろいろな感情がそこにはあるだろうと考えます。
ちょっとしたことですが、挨拶の仕方、顔の作り方、言葉選び、姿勢、立ち位置など、おそらくは本来の病気に対する知識や治療技術よりももっと基本的なところで、大切にしなければならないことがあり、病気に対する知識と治療技術は、不可欠な要素ではあるけれども、それだけが全面にあるだけではファミリーの安心は得られないはずです。
こういう、ある程度好みが分かれてしまうところに注力をするわけですので、当然、好みがわかれてしまうでしょうね。
治療が正しければ、しっかりと治れば、それで誰もが安心されるかというと、おそらくはそうではないと考えています。
治っても、不満が残ることもあるでしょうし、治らなくても安心できることもあります。
この後者には、こんなエピソードがあります。
歩くのがやっとのワンコが来院しました。
ご家族で来院されました。
お母さんは、まだ小さなお子さんを前に抱っこされて、お父さんがワンコを抱えて診察室に入って来られました。
いくつかの検査をしますと、お腹の中に腫瘍があり、貧血もかなり重度です。
すぐにわかる検査結果から、ある程度病気の診断リストはできるのですが、最終的に一つの確定診断に絞り込むためには、さらに検査をする必要があります。
この追加検査には、費用もかかりますし、ワンコにも負担がかかりますから、その場で結論を出してもらうことはしませんでした。
そこでの会話です。
もし確定診断を行うには、今の貧血状態では難しので、もう少し体調を整える必要があります。しかし、最も可能性が高い病気は、リンパ腫です。これですと、これ以上体調が良くならないことも考えられます。そうすると、確定診断がつかないまま急変もあり得ます。
検査と治療を積極的に行う方法と、かなり消極的にできることを探しながら、確定診断はつかないけれども、そっと優しい治療だけを行うという選択肢をご提案しました。
幸いにも、ワンコはステロイド剤によく反応してくれて、見違えるように元気になりました。
貧血はやや改善していますが、お腹の中の腫瘍はそのままです。
ご家族の出された結論は、腫瘍は取らないし、確定診断に向けた検査はしない。でも、ステロイドの飲み薬は続けたいというものです。
この子は、ご家族と過ごせる時間はそう長くはないでしょう。
よくて半年くらいだろうと思います。
お腹の中に腫瘍があり、貧血があり、初めは歩くのがやっとだったけど、今では少し散歩もできるようになりました。最終的には治すことはできないわけですし、一緒の生活の終わりもある程度見えます。
しかし、ご家族は初めての時とは全く違う、笑顔で毎回来院されます。
ワンコの病気は治らないけど、いつ起こるかわからないお別れの時を考えると不安がおありでしょうけど、それよりも大きな安心が今はあるように見えます。
このご家族が、ワンコにお別れをされるときに、穏やかなさよならができるように、最後までお手伝いできる動物病院でありたいと思っています。
かなり話が逸れましたが、マイボーム腺炎。
ご家族は早期に完治を期待されていますが、数日で治るものではありません。
よく思うのですが、インターネットで病気のことを勉強されているご家族と僕との決定的な違いは、この病気が今後どのように推移するのかを何度も実体験しているかしていないかということです。
つまりは、「今後このようになりますよ」という心積もりをしておいてもらうことができます。
その想定内で推移する分には、ご家族の方々もあまり心配されずに治療に付き合っていただけることが多いものです。
まずは1週間で治療経過をみることになっています。
きっと最終形の50%くらいは良くなっていると期待しています。
その予想どおりになり、ご家族の皆さんに喜んでいただければ、まず一段階目は成功かも知れません。
ちょっと楽しみです。病気のことなのに不謹慎ではありますが。