日本橋動物病院だより

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赤ちゃん誕生!! – 犬の出産 その2 –

1匹目が生まれ、どうにか元気に動くようになったとき、もう一つの問題を想定し解決策を練らなければならなくなっていました。

赤ちゃんは、お母さんワンコのお腹の中にあと2匹います。

次の破水までは待つつもりですが、同じように娩出が可能かどうかの保証はなく、帝王切開に切り替えなければならない可能性も大いにあります。
そうなると、破水が深夜であれば一人で手術をしなければならず、その手順を確認する必要があります。

その前に、手術器具の準備と滅菌です。

翌日の診察もかなりハードに予定されていますので、全くの徹夜だと支障を来します。
体は次の日の夜までどうにか動くでしょうが、意外と頭がついて来ません。徹夜明けですと、次第に簡単な計算に時間がかかるようになることがあります。

獣医師の場合、薬を使うときには、どうぶつの体重からその量を決めなければならいことが多々あります。犬であればこの量で、猫であればこの量で、そしてウサギには使えない。そんな薬もたくさんあります。そして、グラム、ミリグラム、マイクログラム、など、単位の取り扱いもあり、もし単位を間違うと、例えばグラムとミリグラムであれば1000倍量も違いますので、大変なことになるでしょう。もちろん、そんな違いは起こらない訳ですが、いつもと違うコンディションでは、いろいろなことを判断する速さが鈍るような気がしています。

だから、できるだけ頭を休める必要があります。
ちょっとずつ休憩を取りながら、お母さんワンコの様子をみました。まだのようだな。その繰り返しです。

深夜の2時になり、 3時になり、結局そのまま空が白くなってきました。
どうかな、朝まで大丈夫かな。
そのまま8時になり、看護士達が出勤し始めました。

彼女達がいてくれたら、何も心配ありません。
一応、陣痛促進剤を注射し、自然分娩の可能性を探りましたが、薬が反応する時間になってもお母さんワンコには陣痛があるだけで破水が見られません。おそらくは赤ちゃんが大きすぎるのかも知れません。
直前のレントゲン検査では、どうにか自然分娩できるかどうかのギリギリの大きさでした。無理だろう。そう判断し、帝王切開をすることに決めました。

朝の外来が始まる20分前でした。
まずはお母さんワンコに麻酔導入剤を注射し、呼吸を補助する気管チューブを挿入、点滴を流しながら、酸素だけを流します。
そこに筋弛緩剤とオピオイドを入れて手術開始です。

お母さんワンコにも、赤ちゃんにも、麻酔はかかっていません。
痛み止めと筋弛緩剤がしっかりと効いています。

助手をやってくれる看護士、麻酔係をやってくれる看護士、そして外の看護士の計3名の看護士と僕とで手術を始めました。
お腹を切開し、正中切開、そして子宮切開して赤ちゃん2号(帝王切開1号とも言いますが)を取り出しました。赤ちゃん2号は、子宮のかなり出口まで来ていましたが、大きめの頭が引っかかり、全く出る気配がないままでした。
赤ちゃん2号は、とっても元気で、ガーゼで顔や体を拭いてあげると、そうしている間にも手術台から転げ落ちる勢いで動きます。それくらい動き回ります。直ぐに次の子(赤ちゃん3号)に取り掛からないといけません。
同じ切開線から、赤ちゃん3号を引っ張り出します。同様にガーゼで拭いていると、同じくらいに動いてくれます。

それぞれ臍の緒を赤ちゃんのお腹から少し離れたところで結紮し、切り離して、外にいる看護士に渡すと、さらに体を優しく拭いたり保温をしたりしながら大きめの産声が聞こえるまで続けました。

ぎーぎーと3匹とも鳴いています。
難産介助して生まれた赤ちゃんが1匹、帝王切開で生まれた赤ちゃんが2匹です。
初めの赤ちゃん1号は3匹の中でもやや小さめの女の子で、後の赤ちゃん2号と3号はやや大きめの男の子でした。1番目が小さめで、難産ではありましたが介助下で生まれてくれましたが、さすがに2号と3号は帝王切開でないと無理でした。

お腹の中にいた2匹の赤ちゃんを取り出した後、直ぐにお母さんワンコに全身麻酔をし、そのまま手術を終わりまで進めました。

お母さんワンコの帝王切開の最後は皮膚縫合で、これが終わると直ぐに赤ちゃんに初乳を飲ませます。初めはまだしっかりと初乳を飲んでいるようには見えませんが、人の手で赤ちゃんの口をそっとお母さんの乳首につけてあげると、飲むというよりも舐めるような感じで受け取ってくれます。

夜通し頑張ったお母さんと、はじめは青白かった赤ちゃん1号、頭が出口に届きながらもそこから進まずに帝王切開でやっと生まれた2号、そして3号は産声までの時間が一番かかりました。最後まで鳴かなかったのは3号でした。

それぞれが本当に頑張りました。
うちの看護士達も本当によく頑張ってくれて、テキパキとした動きにかなり助けられました。
彼女達には本当に感謝しています。

僕は、徹夜でしたが朝早くの手術でかなり集中したのと赤ちゃんが全員無事に生まれたことで、やや過剰なアドレナリンにより、そのままその日の外来が終わるまでは、特段いつもとは変わらずに体も頭も働かせることができました。

入院ののちに、お母さんワンコも3匹の仔犬も無事退院し、可愛い名前をつけてもらって、今のところ順調に育っています。

お母さんワンコが胎盤を口いっぱいにしながら食べていたことも、まだ目も開かない生まれたばかりの赤ちゃん達が懸命におっぱいを探して飲んでいることも、本当にいつ誰に教えてもらったの?と、不思議で仕方がありません。

早く目が開いた赤ちゃんを見てみたい。
あの時頑張ったお母さんワンコも、赤ちゃん達も、本当にかっこいい。
その場に居合わせてもらったことは幸運でした。