日本橋動物病院だより

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アメリカに行ってきました。- 2018年9月関節鏡コース – その3

初日の朝食をとると、いつものように7時30分にはホテルの前までバスが迎えにきてくれます。このバスには、今回のコースに参加する人達しか乗りませんので、こんな方々が参加するんだなーと、年齢層がわかったり、雰囲気がわかったりします。今回は、やや年齢層が高めで、落ち着いた感じの方々が中心でした。

ホテルから5分くらいのところに会場となるオクエンドセンターがあり、まずはレクチャールームに入ります。開始時間になると、女性のディレクターさんが挨拶をしてくれて、コース概要を説明してくれました。そして、一人ずつ自己紹介をすることになりました。参加者は16名ほどです。ほとんどがアメリカで仕事をしている獣医さんですが、中米の国からアメリカに来て獣医師をされているドクターもいます。その中に、オーストラリアから参加しているドクターが1名いました。アメリカ国内以外で仕事をしている獣医師は、僕とそのオーストラリアからの2名だけです。
ここで、そのオーストラリアから参加している獣医さんが自己紹介をしているときに、あれっ?と思うことがありました。

以前にアイオワ州立大学で神経外科のコースを受けたことがあります。コースの最終日が終わると、教授から、すぐに帰るのか?それとも1泊するのか?と聞かれ、1泊するつもりだと答えると、じゃあ一緒にシューティングに行こう!と誘われました。銃を使って射撃をしに行こうと言うのです。正直あまり興味はなかったのですが、良い体験になるかもしれないという好奇心で、その教授のお誘いに乗りました。そこには、僕ともう一人の参加者と教授の3名で行くことになったのですが、そのもう一人というのがオーストラリアから参加したドクターでした。確かその時の神経外科コースの参加者は25名ほどでした。今回のコースに参加しているオーストラリアから来られたドクターは、その時のドクターにそっくりですし、名前も同じです。

はじめの休憩時間に、そのドクターに話しかけて見ました。数年前にアイオワ州立大学で神経外科のコースを受けたことがありませんか?ちょっとびっくりした感じで、ありますよ、そう答えてくれて、一緒にシューティングに行きましたよね?と、その時の写真を携帯電話のファイルから表示して見せますと、あー、あの時のと、覚えていてくれました。
この偶然はすごいことです。本当にびっくりしましたよ。
これから3日間は、この先生とペアを組んで関節鏡の手術や実習を行うことになりました。

関節鏡はやっぱりいいですね。
手術用顕微鏡でないと見ることができない世界が広がります。関節滑膜の細かな血管の走行や、関節表面の詳細を肉眼では見ることはできません。全身麻酔が必要ですが、小さめの皮膚切開からスコープを関節内に挿入すると、大きな画面に関節内の様子が鮮明に映し出されます。

実習は、まずはレクチャーがあり、次にそれを実践し、またレクチャーがあり、それを実践するという繰り返しです。実践するための時間がかなり長く取ってありますので、ほとんどを手術室で過ごすことになります。

ランチの時間には大きな丸テーブルがいくつかあるダイニングで食事をするのですが、ちょっと苦手な時間です。初対面の人と話をするのは得意ではありません。できれば静かにしていたいのですが、丸テーブルですから、一人ポツンと誰とも話さない訳にはいきません。まあ、話が始まればあとはどうにかなるので、それほど苦手な時間ではなくなります。僕の場合、日本ということで、ちょっと興味を持ってくれたドクターから、直航便はあるの?とか、どこで乗り換え?とか、そんなことから始まって、自分の話もしてくれるので、逆に質問したり。中米からアメリカに働きに来ているドクターは、飛行機で地元に帰ると森の中の空港に到着するらしく、帰って来た感じがするんだとか、そういう話などをして。でも、すごいなと思いますね、僕なんかちょっとだけアメリカに来るだけですが、彼はそこで仕事をしていて、さらに関節鏡の勉強もするということはなかなかできないことですよね。やっぱり刺激になりますね。そのようなドクターに比べると、僕なんかまだまだ頑張りが足りないなって思います。

実際に関節鏡を使う場面では、関節鏡メーカーの担当者がいろいろな細かな説明をしてくれたり、補助として動いてくれたりしますので、大変に助かります。

関節鏡で大切なところは、皮膚切開の位置と言いますか、必要なところにしっかりとポートを作れるかどうかだと思います。あとはカメラで観察するだけと言えばそうなので。ただ、このポート作りはときに困難を極めます。僕の憧れの先生があるのですが、その先生でさえ、正しい位置にポートを作れずに関節の評価ができず、ご家族の方に「できませんでした」と言わなければならなかったお話を聞かせてもらったことがあります。

とにかくメモを細かく取りながら、ときに写真も撮りながら、かなり細かなところまでしっかりと記録しました。休憩時間にも、ホテルに帰ってからも、帰りの飛行機の中でも。すぐに忘れてしまうといけませんし、東京に帰ったら関節鏡を導入すると決めていました。

このようなコースを取得しますと、何だかできるようになった気になってしまいます。しかし実際に、実戦に移すには、結構高いハードルはあります。単純には、関節鏡を導入しなければならないということ、そして、関節の外科手術ができるようになっていなければなりません。関節に病気があるから関節鏡を使うわけですので、関節鏡で見ました、そして異常を発見しました、でも手術はできませんではいけません。そして関節の外科はそれなりに難易度が高めです。

そうなんです、関節鏡ってかなり高額で、都内でいうとワンルームマンションくらいと言いますか、LEXUS2台分くらいと言いますか、本来はうちのような専門病院ではない一般的な動物病院にあるようなものではないのですが、今回は思い切りました。

ちなみに、僕は未だかつて車を買ったことがなく、運転免許だけはあるのですが、持っているのは自転車だけです。笑

より良い獣医療を目指しながら、これからしっかりと役に立てるようにしなければなりません。