日本橋動物病院だより

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お母さんになりましたよ。 - 犬の帝王切開 –

道路脇の紫陽花が綺麗な季節になりました。小さな蕾の集まりだったのに、花といいますか、ガクといいますか、色とりどりで楽しませてもらっています。

もう5月が終わりますね。この一か月の間は、いろいろな手術がありました。
うちは比較的手術が多い方だとは思いますが、手術をしなくても良さそうであれば、まずはできるだけ手術以外の治療を試みて見ることが多いですね。

避妊手術や去勢手術、そして歯科手術は毎日のようにやっていますが、今月は会陰ヘルニア整復手術、会陰尿道瘻設置術、チェリーアイ整復手術、大型犬の骨折の整復、膝蓋骨脱臼の整復手術2件、そして帝王切開がありました。

わんこの帝王切開は、20日(日)の夜のことです。

午前中にもしかしたら赤ちゃんがいるかも知れないと、小さなわんこを連れて来院されました。超音波検査をしますと、画面には動いている赤ちゃんが見られました。「おめでとうございます!!」そう言いますと、飼主さんは「えーーっ、赤ちゃんいるんですね!!」と驚かれています。飼主さんのお家には小さなワンコがたくさんいます。さらに大所帯になることになります。本来なら、レントゲンで赤ちゃんの数を確認したり、大きさを見るところですが、いつできた赤ちゃんかがわからないために、レントゲン検査は見送ることにしました。レントゲン検査が早すぎることは赤ちゃんに影響がありますし、出産に向けて大きさを確認するなら、出産が近い日に行うのが良いからです。

出産は今日かも知れませんし、10日後かも知れません。
ここからは体温を測って、ある程度出産の日を想定することができます。

夜の診察時間のほぼ最後のところで、飼い主さんからお電話がありました。
お出かけから帰宅すると、生まれたばかりの赤ちゃんが亡くなっていたというお知らせでした。
何匹いるかはまだわかっていませんが、出産日であればレントゲンで確認ができます。
すぐに来て頂いて、レントゲン検査をしました。
お母さんワンコのお腹の中には、もう1匹赤ちゃんがいます。
1匹が自然分娩できたので、もう1匹も自然には生まれるだろうと推測できます。大きすぎて、自然分娩できないことはおそらくなないだろうと思いました。しかし、生まれる途中で亡くなったり、その後のアクシデントを考えますと、帝王切開をした方が助かる確率は高いだろうとお話しをしました。

飼い主さんは、少しも迷われずに、帝王切開をご希望されました。

日曜日、夜オペ。
この日も多くの外来がありましたが、診察時間が終わっていましたから、みんなすぐに準備を始めてくれました。本当にテキパキと動いてくれます。麻酔管理を看護士の鈴木と三橋獣医師が行い、三橋獣医師は同時に手術の助手もしてくれています。

うちはブリーダーさんとのお付き合いが無いためか、帝王切開はあまりありません。スタッフの中にも、まだ帝王切開を見たことが無い者もいます。
帝王切開の麻酔は少し特別です。お腹の赤ちゃんにも麻酔薬が届く場合があるために、気を付けなければなりません。

準備ができたところで切開を始めますと、すぐに大きくなった子宮に到達します。

子宮をそっと切開すると、透明の膜に包まれた赤ちゃんが現れます。この時点では赤ちゃんはお母さんワンコと臍の緒で繋がっていますので、酸素の供給はそこから受けています。
その膜を手で破り、赤ちゃんの顔を露出して、その体をガーゼで優しく擦ります。
しばらく擦り続けましたが、まだ産ぶ声が聞けません。
ある程度の時間をかけたら、あとは臍の緒を切り離し、看護師にバトンタッチしました。

そして僕たち手術組は、お母さんの子宮とお腹を閉じにかかりました。
それでも赤ちゃんは泣きません。

お母さんワンコのお腹を閉じて、手術が終わりましたが、赤ちゃんは時々動くだけで息をしませんでした。それからしばらく時間が経つにつれ、赤ちゃんの動きが活発になり、少なくとも悪い方向には向かっていないと、このまま元気な産声が聞けるのではないかと思っていると、「ギー、ギー」と聞こえる元気な声で赤ちゃんが泣き始めました。

お母さんも無事、赤ちゃんも無事。
僕達の一日の疲労を消し去るように、赤ちゃんは泣き続けました。

本来は帝王切開では、できるだけその日のうちにお家に帰って頂いています。しかし今回は、飼い主さんのご希望もあって、おおよそ1週間ほどお預かりをすることになりました。
その間に赤ちゃんはどんどん大きくなり、飼い主さんが御面会に来られる度に、「また大きくなりましたね。」、いつも満面の笑みでそう仰っていました。

退院する頃まで行くと、赤ちゃんはコロコロに大きくなりました。
飼い主さんが、「先生、ミルクと哺乳瓶を買ったんですけど、どう使ったらいいですか?」と言われましたが、「全く必要ありませんよ。お母さんがとてもよく面倒を見てくれていますから」(笑)

とっても元気な家族がまた1匹増えました。