TPLOという手術 – 前十字靭帯の損傷 –
桜が満開ですね。
近くで夜桜のライトアップがありました。
毎年この時期には、満開の桜とともに飛び交う花粉症に悩まされていましたが、良い点鼻薬のおかげで、ほとんど気にせずに過ごせています。
そしてお花見を楽しむことができました。
後足を痛めて、歩くことが辛そうなワンコさんが来院しましたよ。
触診から、前十字靭帯の損傷と半月板損傷があることがわかりました。
前十字靭帯は、膝にあって、太ももの骨とスネの骨とをつないでいます。そして、膝の部分で太ももの骨とスネの骨がガチガチと当たらないように、クッションの働きをしてくれるのが半月板です。
犬は前十字靭帯を損傷することが多く、整形外科疾患としては最も多いとされています。その治療法は、大きく分けて2つあります。骨を切らない方法と骨を切る方法です。
骨を切らない方法は関節外法と言われて、世界中で最も多く用いられている方法です。これが最も多く用いられるのは、まず骨を切る方法に比べて手技が簡便であることと、手術費用が抑えられるということです。しっかりと効果が証明されています。この方法には、靭帯の代わりに人工的な素材を用います。糸と呼ばれるくらいの物もあれば、簡単には伸ばすことも切ることもできないような、ワイヤーと呼ばれるくらいの物もあります。このあたりは、手術をする人が選びますし、対象となる犬の大きさにもよります。
この糸やワイヤーが永続的に靭帯の代わりをしてくれるわけではありません。
糸やワイヤーのほとんどは、いくら丈夫でも、いつかは破たんすることになります。そのものが切れてしまうこともありますし、種子骨靭帯などの糸やワイヤーを引っ掛けているところが切れてしまうこともあります。
それまでの間に、膝の関節包なり支帯が線維性に厚みを増すことで、つまりは膝の周りに丈夫なサポーターを着けたような形になり、膝の安定化が得られます。
しかしこの糸なりワイヤーなりが膝の組織による安定化の前に破たんすると、その後も膝の安定化は困難になります。
そもそもなぜこの靭帯が切れてしまうのかといいますと、その原因ははっきりとはわかっていません。ただ、この靭帯が変性して弱くなってから切れることはわかっています。そして、この靭帯には、犬が歩くたびに常に結構な力がかかっています。
それでも、僕の印象としまして、結構膝を酷使する子に起こる気がします。
体重がある程度ある子でしたり、活発に飛び回って膝にかなりの力がかかる子などです。
そしてこの変化は、当然ながら片脚だけに起こることではなく、両膝に起こることも少なくありません。
この子は、近くのお店のワンコさんです。実際の飼い主さんだけからではなく、お店でお仕事をされる方々からも大切にしてもらっている子です。
手術が終わると、かなり早い段階で、そのお店でお仕事をされる店員さんが御面会に来られました。2-3分しか時間がないから、すぐに会わせて欲しい。
まだ手術が終わったばかりで、あまり動かしたくはなかったのですが、まあ、大丈夫でしょう、そう思いましたので、会っていただきました。
その店員さんは、白髪混じりのとても優しい顔のお父さんで、いつもに増して目尻を下げながら、抱っこしてワンコさんに声をかけていらっしゃいました。
この子に行ったTPLO(脛骨高平部水平骨切り術)という手術は、骨を切る方法です。
大型犬によく用いられ、僕も先月行ったのはゴールデンレトリバーでしたが、最近では小型犬にもよく用いられます。
そうは言っても、まだまだやっている先生は少ないと思います。
切開線、骨切りラインの決定、慎重な術中評価をして、プレート固定まで行います。
この手術の場合、骨を切りますので、もし合併症が起こりますとかなり大変なことになることがあります。しかし、そのほとんどは、術前計画をしっかりと立てて、術中にも評価をしながら行えば大きな問題にはならずに安全に行えると思います。
術前計画は、細かな計測が必要です。
この計測にはある程度の個人差が出ると言われています。
そして、計測のためには、ちゃんとポジショニングしたレントゲン写真が必要です。
友人にオーストラリアの整形外科の専門医がいます。
彼が、レントゲン写真を送ってくれたら、ダブルチェックとして計測するよと言ってくれますので、お願いするようにしています。
骨を切りますので、膝窩動脈というどうにか避けられる血管ではなく、脛骨そのものからの出血が激しい場合には、どうにもできません。これについては、初めから予想することはできないので、大出血が起こったら起こったで対応するしかありません。
先月のゴールデンレトリバーの時には、周りのスタッフもびっくりするくらい出血しました。ただ、僕は、危ない膝窩動脈からではないとわかりましたので、全く気にせずに出血するまままかせて、そのまま手術を続行しました。それ以外、何もできませんので。
そういう面から見ますと、ちょっと精神状態がおかしくいくらいでないと、この手術は大変かも知れません。
このゴールデンレトリバーは、麻酔から覚めるとかなり早い段階で食事をペロリと平らげ、次の日から歩いていました。出血はかなり多かったのですが、彼の体の大きさを考えますと、大したことはなかったんですね。
今回の子はトイ犬種と言われる小型犬ですので、より慎重な手術が求められましたが、幸いにもほとんど出血せずに終わりました。
ワンコさんの御面会は、お店の方に始まり、お父さん、そして後半はお母さんと続きました。
当院では、前十字靭帯の損傷・断裂の外科的治療として、関節外法、TPLO、TTAの3つの手技を行なっております。飼主さんが最善の方法をご希望される場合には、TPLOを推奨しております。
このワンコさんは、ほどなくして退院して、もう抜糸も済みましたが、足の方はかなり早い回復をしています。
アメリカでの研修はかなり早いうちに既にいくつかの成果を見ることができました。