日本橋動物病院だより

日本橋動物病院だより

お尻が腫れました。 – 犬の肛門腺癌 –

寒くなって来ましたね。暖房が入っているお家も多そうです。

お尻が腫れたワンコくんが来院しましたよ。
腫れ方からみますと、会陰ヘルニアと呼ばれる、いわゆる脱腸に見えます。

ちょうど肛門のすぐ横がポッコリと腫れています。
不用意に針で突いて検査をすると危険なことも想定されますので、まずは超音波検査(エコー)やレントゲン検査を行いました。

どうやら会陰ヘルニアではなさそうです。

肛門腺を調べようと、肛門腺の中に細いカテーテルと呼ばれる管を挿入しました。赤黒い液体が回収され、少しばかり膨らみは小さくなりました。

肛門腺の炎症あり得ると考えて、まずはお薬を飲んでもらうことにしました。

お薬を飲むと膨らみは小さくはなりますが、最終解決には至りませんでした。
手術で摘出しましょう。
できれば、CT検査でどこまで深い腫れかを調べてからが手術はやりやすいのですが、ワンコさんはかなりのお年ですので、あまり何回も麻酔をかけたくはいという想いがありました。
丁寧に、慎重にやっていけばCT検査の情報がなくても大丈夫だろう。そう考えて手術をすることにしました。

飼主さんは、僕が神経外科を学んだアイオワ州立大学の御出身ということで、ホームページの僕の紹介欄からそのことを知られたようで、そこでもお話が盛り上がりました。
僕がアイオワ州立大学に初めて行ったのは、神経外科をどうしても習得したいと思っていたときでした。まだその分野の手術をしたことがないときです。
神経外科を必要とする子は多くいますが、その手術ができる動物病院は限られます。この手技を習得したい場合には、その手術ができる獣医師から教わることになります。
それは大学のような教育機関かも知れませんし、日常的にそのような手術を行っている動物病院に勤務して手術助手から始めるという方法です。

動物病院の仕事がありながら、大学に入学することはほぼ無理です。
神経外科を行うのは日本の大学ではそのまま外科の担当ですが、朝から夜までみっちりと大学に詰めてかつ数年間の時間をかけなければ執刀を任せてもらうことはできません。

また、これらの手術を行っている別の動物病院で教わることは、同様に困難です。

アイオワ州立大学の神経外科のコースは、指導教官として世界的にとても有名な教授陣が複数名います。そのコースは定員がとても少ないのと、当時は1年に1回しか受け入れをしていませんでした。(今は、同じ内容を年に2回、同じ指導教官がネバダ州のとても立派な施設で行っていて、こちらは空港からも近くて行きやすくなりました。)

アイオワ州立大学にはそれっきりもう行かないかも知れないと思っていましたが、それ以降さらに2回も行きました。アイオワ州立大学に行くために利用する最寄りのデモインは、アメリカの大統領選挙でもっとも重要な都市とされ、また養豚ととうもろこしの州です。
お尻のできもの…、
最も可能性もの高いものとして、肛門腺の腫瘍があります。

慎重に手術を進めていきますと、結構奥が深いことがわかりました。それでもしっかりと取りきりたいので、止血をしながらそっとそっとできものを周りの組織から剥がしていきますと、最終的にきれいに取り除くことができました。

病理検査の結果、これは肛門腺癌でした。取りきれていたのでまずは手術としてはよかったのですが、今後も定期的に診察が必要です。

飼主さんはとても明るい方で、ご心配もおありのはずですが、いつも笑顔でお話を聞いてくださいます。今回も術直後にはオシッコが上手にできなくなったので、いくつか補助的な治療を追加しました。そのときも、きっと大丈夫!と、ワンコくんを励ましていらっしゃいました。
無事に退院ができてまたいつもの生活に戻られました。

ここしばらく海外で勉強できていません。
年明けにネバダ州の検修施設(Oquendo Center)で勉強してきます。
今回は膝の手術です。新しいことを学べるはずです。