突然歩けなくなりました – 犬の椎間板ヘルニア –
連日、夜に降雨を見ることになりましたね。
ここからは日々寒さに向かうのでしょうか。
久しぶりのご来院だったワンコさんは、突然の歩行不能になっていました。
椎間板ヘルニアになりやすい犬種ですので、おそらくはそうだろうと考えて、いくつかの検査をしました。
神経学的検査、血液検査、X線検査などです。神経の反応がなく、対麻痺と呼ばれる状態です。
この状態ですと、自分でオシッコをすることができません。
カテーテルという管を使って、尿を回収する必要があります。
手術に向けて、MRI検査を行い、どこの椎間板に問題があるのかを調べてから手術をすることになりました。
犬の背骨の数は、首が7本、胸が13本、腰が7本ですが、今回はMRI検査の結果、腰の骨の2番目と3番目に重い椎間板ヘルニアが見つかりました。
椎間板ヘルニアの重症度は、4段階に分けるものや5段階に分けるものがあります。通常は下のように5段階に分けることが多いですね。
グレードI 背部痛があり、神経学的異常がないもの
グレードII 歩行可能な不全麻痺(不完全麻痺)
グレードIII 歩行不可能な不全麻痺(不完全麻痺)
グレードIV 対麻痺、深部痛覚あり(下半身の麻痺)
グレードV 対麻痺、深部痛覚なし(下半身の麻痺)
背部痛は、痛みではありますが、色々な症状をみせます。
下半身を中心とする振るえがみられることもよくありますし、動きたがらないとか、立ったまま座ろうとしなかったり、抱っこをしようとするとキャンと鳴いたり。
この段階では、麻痺のように誰の目からも明らかな変化がありませんから、いろいろな見方をされます。振るえるのは寒いからだろうと、夏場であればエアコンを切られたり、冬であれば暖房を強められたりされることがあります。
ときに、いつも外から帰って来られたときにで迎えてくれるのに、来てくれないなどといったことも起こります。
深部痛覚があるかどうかの判断は、後脚の指をつねってみて「やめて!」って振り向くかどうかでみます。大切なのは、振り向くかどうかです。つねったときに足を動かすだけで「やめて!」を表現することがありますが、振り向かない限り、深部痛覚があるとは判断できません。
今回のワンコさんはグレードVということになります。
ある統計では、グレードVのワンコに片側椎弓切除術という手術を行った場合、58%に改善がみられたとされています。歩けるようになるには、3か月ほどかかった子もいるということですので、手術後すぐに歩けなくてもまだ期待はできそうです。
お父さんはある程度楽観的に、歩けないままだったらどうするんだよーとワンコさんに話し掛けられます。体重が結構ありますから、痩せないといけないなーとか。
深刻な状況であることはご理解されていますが、それとは別にかわいいワンコさんに優しく声かけをされていました。
手術は型どおりに、片側椎弓切除術を行いました。
まずは単純レントゲンで最終的に手術をする部位を確認してから皮膚を切開しました。
この手術で最もやってはいけないことは、病変部位とは異なるところを手術することです。当然のようですが、病変部の特定はそれなりに難しいことがあり、そこを間違わないようにするためにいろいろな方法があるほど、間違いやすく、大切です。
周りの筋肉を避けて、背骨が見えるようにします。
そこで背骨に電動ドリルで穴を開けていきます。開窓と言われるものです。ある程度しっかりと穴を開けたら、脊髄神経が見えてきます。その脊髄に当たっている、本来の場所から飛び出した椎間板物質を取り除くのが手術の目的です。
このワンコさんからはかなり多くの椎間板物質を回収することができました。
もう終わりかな?と思うとまた、そしてまたという具合でした。
きれいに取り除けたら、洗浄して終わりです。
筋肉を寄せたり、最後は皮膚を縫合して麻酔から覚まします。
麻酔からの覚めは良好でした。
手術から2日もすると、それまで振れなかった尻尾を振れるようになり、自分で排泄もできるようになりました。
まだ歩けませんが、足の反応は良くなってきていて、腰を支えてあげますと、踏み直るように後の足先を動かすようになりました。
それを見てお父さんもとても喜んでくださいました。
重い体重がどうにかなると、もっと良い反応が期待できそうです。
本来なら術後ある程度のところで退院できたのですが、お家に迎えるための環境づくりのために少しだけ入院が長くなってしまいました。
それまで毎日のように御面会に来られていました。
そして今日が退院の日です。
まだ歩けませんが、術後の反応は良いと思います。
もうそろそろ歩けるようになるはずです。