SLに乗りましたよ - 沿線の栃木の方々に感動 –
雨が多いですね。暑さ、寒さも彼岸まで。今回は暑さが終わる秋分の日。ちょっと哀愁を感じます。
電車の中吊り広告で宣伝していたSLに乗りました。鬼怒川沿を走る大樹というSLです。鬼怒川温泉駅から下今市駅までおおよそ30分くらいでしょうか。SLの運転のために大勢の乗員がいらして、みんな笑顔で真っ黒になった手袋で手を振って出迎えてくださいました。出発駅と終点の駅ではSLの先頭車両を客車と切り離して、自由に写真を撮ることができる企画もありました。
鬼怒川温泉という観光地で、温泉だけではなく既存の鉄道を活かしたSLがあり、そして鬼怒川やその周辺の自然を活かしたアクティビティーがあり。その他温泉以外の集客にも注力されていました。
一人の観光客としての感想ですが、国内に活気のある温泉地はそう多くはないのではないでしょうか。夏に熊本県のとある温泉地に行く機会がありました。お盆ということもあってか、そこは結構な宿泊客がありましたが、周りは廃墟と化した旅館が林立していました。かつては温泉地として栄えたのだろうと、その建物の数で思いましたが、現役で稼働している宿泊施設は1件だけか、あっても2件ほどのようでした。夜には、近くの街灯がその廃墟旅館に当たり山肌の合間に見えるかつての旅館が所々黒く荒んだ外壁から怖い建物に見えました。そして、僕が宿泊していた旅館の廃墟が立ち並ぶ側の廊下の窓ガラスの下半分ほどには遮光のシールが覆いとなっていまして、背伸びをしても朽ちていく建物群が見えないようになっていました。
反対側の客室のとても綺麗なオーシャンビューの窓とは真逆の光景がとても印象的でした。
鬼怒川温泉が、そうだということはないのですが、そのときの印象に全く重ならなかった訳ではありません。しかしながら、とても綺麗で、まだ新しい旅館やホテルも多くありますし街として一時的な盛り上がりに乗ったものではなく長い歴史のある安定感があります。日光東照宮の周辺とはまた違うのでしょうが、そちらにはまだ行ったことがなくそれぞれの良さの違いはまだ体験できていません。
東京から日帰りでも行ける観光地は多いですので、もし機会があればできれば違うところへと思うのでしょうが、鬼怒川温泉はいつかまたというのではなく、この次に時間ができたら来週にでもまた来てみたいと思うところでした。
SLは大樹という名前で、大樹とは将軍の別称・尊称なのだそうです。知りませんでした。もちろん将軍とは徳川将軍であり、大樹のマークには葵のデザインがありました。鬼怒川温泉駅前の広場に、先頭車両のSLが一両だけ置かれていまして、周りに人だかりがありました。車掌さんらしき方が、SL大樹の旗を持って、SLとともに記念撮影に応じていらっしゃいました。まさか広場にあるSLが実際に車両を牽引するとは思わなかったのですが、その車両は駅前広場からそのまま線路に移動し、先頭車両として客車に連結されました。
SLの特徴である大きな汽笛を時々鳴らしながら、ゆっくりと線路を進む訳ですが線路脇には民家も多く存在しています。汽笛だけではなく、一瞬ではありますが、車窓から周りの風景が見えなくなるほどの煙も出ます。
ときに、民家を丸呑みするほどの量の煙も出ていました。
SL大樹は全席指定席です。僕の後ろの席の乗客の方が、汽笛や煙を見ながら周りのお家の方々も大変ね、とお連れの方とお話しされていました。
僕も同感でした。SL事業は企業の企画でありながら、線路脇には黄金色の田んぼが広がっています。おそらくは観光業とは異なるお仕事をされる方々が大勢いらっしゃるのではないでしょうか。その方々から、騒音や煙の問題での問い合わせはないのだろうかと、SLに乗りながら心配になりました。
そのときです。目に飛び込んで来たのは、「SLに乗ってくれてありがとう」の横断幕です。これはSLを企画した企業とは異なる、車窓からすぐに見える自動車教習所に掲げられたものでした。そして、「SLの運転は教えられません」(笑)、と続きます。
地域の方々に支持されているのかな?そう思わせるものでした。
それだけではありません。線路脇の民家の前には、SLの乗客に手をする方々が大勢いらっしゃいますし、中学生くらいの女の子が友達と作ったのでしょうか、「SLに乗ってくれてありがとう。またSLに乗りに来てください。」という手作りのボードを向けてくれていました。
胸が少し熱くなりました。
僕らはSLに乗って楽しんでいるけど、沿線の方々に迷惑はないのだろうかと、乗ってから気づくことがありました。しかし周りの方々は温かく、そして歓迎ムードでいっぱいでした。
去年まで、日光出身のどうぶつ看護士さんがいました。
結婚、出産とあり、今は育児をしています。
彼女は稲刈りの時期に帰省することがありました。
稲刈りのためにお休み?と、初めは思いましたが、僕も田舎の出ですから、何となくイメージができていました。近所の方々や周りに住む親戚なども集まって、ちょっとしたイベントになっているようでした。「楽しいんですよ、稲刈りは」そう笑顔で話してくれた看護士さんを今でも鮮明に思い出します。
久しぶりにメールを送ってみました。
「SLに乗っていますよ。」
彼女はすぐに返信をくれました。SL、始まったって聞いています。そして近況を少し知らせてくれました。
やっぱりSLは周りの方々にも歓迎されているんですね。
そう思いながらメールの返信を読みました。
まだ沿線の田んぼは色づいた稲穂が頭を垂れています。
楽しい稲刈りはこれからのようです。
沿線で手を振ってくれた方々も稲刈りの日にはSLを見ながら田んぼで集うのだろうと、窓の外を流れる景色を見ながらぼんやりと想像してみました。