叱れなくってね、 - 犬の免疫介在性血小板減少症 –
それほど雨が降らなかったカラ梅雨が明けて、外はまだ早い時間から暑くなっていますね。ワンコの散歩も日中はたっぷりと飲み水の用意が必要です。
免疫介在性血小板減少症という病気があります。
怪我や病気で出血したときに、血液を固めて血を止めるために必要な成分が血小板です。
その血小板が少なくなる病気です。
免疫介在性といういうのは、自分の体の成分によって血小板が壊されてしまうものです。
治療の初期の段階でおおよそ30%ほどの子が命を落とすという報告もあります。
決まった治療方法がありますが、みんながその治療に反応してくれるわけではありません。
今回の来院は、ちよたん(仮名)という小型のワンコです。
体調が良くないということで来院され、血液検査をしてみますと血小板の数がかなり少なくなっています。血小板の数を測定するには、検査機器を使います。
ときに正しく測定できないこともありますので、異常値が出た場合にはまず検査手技を見直すようにしています。
お母さんは、検査結果をお伝えするために診察室にご案内しますと、表情が硬くどうでしたか?ととても心配そうです。病気のお話をすると、さらにご心配が大きくなられたようでした。
まずはしっかりと必要な治療をしましょう。元気はいつものようにはありませんが、まずは状態は落ち着いていますから、じっくりと治療をすることをお話しました。
少しお時間をかけながらお話をすると、お母さんもいつもの感じでお話を聞いてくださいました。
ちよたんの病状を知るために、ご来院の度に食欲はありますか?ご飯は食べていますか?と聞いていました。その他色々な質問をしますが、この質問の時には、決まってお母さんはばつが悪そうなお顔をされます。「ご飯を食べないです。」そう言われますと、食欲不振であまり状態が良くないのではないかと心配になります。
しかしその後、「いつから食べないのですか?」と尋ねますと、決まって、食べてはいますとのお応えです。
もう少し詳しくお話を聞きました。
ちよたんは、ドッグフード、いわゆる「ご飯」をほとんど食べません。
何を食べているかと言いますと、ジャーキーのようなおやつです。
ドッグフードを食べないのです。少なくともお家では。
ですから、食事は取れていますか?という問いには、お母さんは決まって、「取れていません」と応えられます。でも、本来与えたいドッグフードは食べなくても、他の何かは食べていることが多いので、この問診とその応えには注意が必要でした。
それからちよたんは、何回か入院をすることがありました。
お母さんがとっても楽しみにしていらしたご旅行の間に2泊ほどお預かりをしたこともありました。
その間、うちの動物病院では普通のドッグフードを缶詰でもドライフードでも、しっかりと食べてくれます。
おうちでは、いろいろなドッグフードを与えても食べないのに、うちの動物病院では前に置いた瞬間から食べてくれます。
お母さんにお話しすると、おかしいですねー、うちではドッグフードは与えても食べなくてね。不思議そうにされていました。
正直なところ、お家でもちよたんに食べて欲しいドッグフードしか与えないと最終的には食べるのではないだろうか。そう思うこともありました。
でも、お母さんは、ちよたんの粘りに早々に屈してしまわれます。
与えて食べないと、すぐに他の食事を準備されるのです。
ちよたんがまた調子を崩しました。
入院をして治療をすることになりました。
初日、ドッグフードをお部屋に入れると、すぐに飛びついてくれました。
これは!!、すぐに携帯で動画を撮りました。
お母さんにちよたんがドッグフードを食べるところと見て欲しい、そういう目的がありました。
ご面会のときに、その動画を見ていただきました。
えーっ、信じられません。
でも勢いよく食べていますね。お母さんは嬉しそうです。
ちよたんはお家ではドッグフードを食べませんが、お母さんはずっと食べて欲しくて、常に用意はされています。
お母さんはご自身がちょっとちよたんに甘いのではないかということも十分にご理解されています。その中で、お話しを聞かせてもらいました。
この子は、母が亡くなって私が落ち込んでいるときに寂しいだろうと連れてきてもらったんです。
ちよは、母の名前です。
ちよだけではと思い、ちよたんと名付けました。
だからこの子には母の思いもあり、叱れなくってね。
幸いにして、免疫介在性血小板減少症は改善しましたよ。