猫さんの口の腫瘍
桜と青葉がきれいですね。
まだまだ桜が優勢ですが、少しずつ葉も増えてきました。
そして、この花流しが降る頃になり、毎年のように花粉症の症状がほとんどなくなりました。
猫さんが来院しました。
数年ぶりでした。
お話によりますと、近くのご実家にお住まいでしたが、ご結婚されてから都内ではありますが、ちょっと遠くに行かれたようでした。
猫さんは高齢の子に多い腎臓の病気を持ち、口にも病気を持っているために、思うように食事が取れません。お母さんは、お住まいのお近くの動物病院に行かれて治療を続けていらっしゃいました。
この猫さんの口の治療のために、3件の動物病院に行かれ、いずれでも思うような改善が見られないということで4件目としてかつて通っていただいていた当院に来られました。
ご実家が当院のお近くだということもあり、現在のお住まいからは遠いですが、通っていただくことになりました。
口の病気は腫瘍でした。
3件の動物病院では、口内炎との診断だったようです。
一見して結構なできものがありました。
お母さんと相談をして、まずは短い時間だけ麻酔をかけて、口のできものから大豆ほどの組織を取りました。それを病理検査した結果、悪性腫瘍だとわかりました。
お母さんはとても落ち込んでいらっしゃって、もっと早ければよかったのでしょうかとお話されましたが、それは結果論ということもあります。
“後医は名医”という言葉があるそうです。
セカンドオピニョンを求められる場合、後の獣医師の方が病状が悪化しているところを診ることになりますし、情報も多く揃っています。ですから、軽い病状で検査結果などが少なめのときに診察をするはじめの獣医師の方が診断には時間がかかったり、違う診断名で治療を行なうことはあることかも知れません。特に難しい病気の場合には。
僕は口の中のできものが大きくなっていましたから、麻酔をかけて組織検査(病理検査)をするご提案をしましたが、もしまだできものが小さかったら、薬で様子を見たかも知れません。
そして後医は名医であるもう一つには、前の獣医師に何かしらの不満がおありだったか、そうではなくても、次の獣医師に何かしらの期待をされているはずですから、そのバイアスがかかった状態で両者を平等に比較することは困難です。
ここで考えるべきは、飼主さんと猫さんに僕が何ができるかということです。
どうしたらお母さんが安心されるだろうか。
そして、この猫さんはCT検査を受けました。
手術をするためです。
上顎に大きな腫瘍があり悪性腫瘍ですから、上顎の骨ごと取る必要があります。
もし腫瘍が眼球や脳にまで達していたら取ることは難しいでしょう。
幸いにも眼球とは離れていましたし、脳にも至っていませんでした。
骨の中にも動脈が走行しています。
手術で切断することになりますから、出血対策が必要です。
大きな手術になりそうです。
いろいろと検討した結果、オーストラリアで学んだ手技を用いることにしました。
ブリスベンの専門病院での研修で教わりました。
ブリスベンでトレーニングを受けているときには、こんな難しい手術を実際にすることがあるだろうかと思うこともありました。
それまで他の動物病院に数か月もの間懸命に通院されながらも正しい診断には至っていなかったために、結果としては必要な治療を受けることができなかったという後悔が飼主さんを苦しめていました。
高齢で腎不全があるために、通常は今回のような猫さんに大きな負担のある手術は勧めしませんが、できることであれば、可能性が少しでもあれば手術をしたいという思いが伝わってきます。
そのときそのときの判断で、できるだけのことをした。
それを大切にされているようにも見えました。
よい結果が得られるように、後はしっかりと手術をするだけです。
明日の手術に向けて今日から入院の予定です。
それまでCT画像でのシュミレーションを続けます。