デキモノとともに取り除けましたか? -局所麻酔での手術-
雨ですね。雪かもしれないという予報もありましたから、少しだけ期待してしまいました。
同じ中央区内ですが、少しだけ距離があるとろから、お久しぶりの来院でした。
13歳半を超えた、かわいいワンコさんです。
少し年を取ったのと、あまり遠くまでは歩けなくなったので、普段は近くの動物病院に行かれています。今回は、結構お困りの様子でした。
お話を聞きますと、ワンコさんの太ももにヒトの親指の爪くらいの大きさのデキモノができています。ワンコさんはそのできものを一日中舐めているようでした。
そのデキモノはジュクジュクと湿っていて、少し出血もあります。
来院されたときは、そのできものには絆創膏が貼ってあり、できもののまわりの毛の影響ですぐに剥がれそうでした。
このデキモノがあるために、ワンコをおいて外出してもどうしているか気になってしまうとのことでした。近くの動物病院では、年齢を考えると手術はできないという判断のようです。
取り除くことができないデキモノが、おそらくは消えることはありそうにないですから、この先ずっと付き合わないといけないということで、お母さんにもワンコさんにもおおきなストレスになっているようです。
お母さんは少々お疲れのようでした。
うちに来られたということは、何かしらの解決策を期待されている訳ですから、僕も絆創膏でしのぎましょうとは言えません。
かと言って、軽々しく全身麻酔で切除しましょうと言うものでもなさそうです。
ワンコさんは大人しい子で、少し年齢の影響もあるのでしょうか、おっとりとた動きをします。
これなら局所麻酔でもこのデキモノを十分に取り除けそうです。
お母さんにその提案をしますと、とても喜んでくださいました。
「全身麻酔じゃなくてもできるんですか?」
おそらく、このデキモノのことを解決するためには、手術が必要で、そのためには全身麻酔が必要で、年齢を考えるとリスクが高い、そのようなことだったのではないかと思いました。
当院ではもっともっと麻酔リスクのある子にも、全身麻酔で手術を行ないますから、その方法も取れなくはありませんでしたが、今回は局所麻酔でも安全だと判断しました。
ちょうど外来が途切れたときでしたから、直ぐに始めることになりました。
お母さんは笑顔でお願いしますと言ってくださいましたが、心の裡はやはり不安があったはずでした。
デキモノの周りの毛刈りをして、きれいに消毒をして、そこで局所麻酔の注射をデキモノのまわりにできるだけ痛くないようにしました。そして横になってもらってから手術です。
メスを入れ、取り残しがないようにデキモノを取り除いてから、小さな出血も見逃さないように止血をして縫合しました。
かかった時間はおおよそ10分間ほどでしょうか。もっと短かったかも知れません。
終わりましたよ。
お母さんにそのように声をかけますと、今度は本当の笑顔になってもらった気がしました。
局所麻酔ですから、ワンコさんは普通に歩いてお家に帰れますし、ちょっともフラフラしません。気になっていたデキモノはもう無くなっていて、ワンコさんは元気で。
10分前とはかなり異なる状態で帰ることができます。
これでお母さんはあまり気にすることなく外出ができますし、絆創膏を毎日取り替える必要もありません。
抜糸が必要ですが、それが終わればもっと安心して頂けるかも知れません。
この局所麻酔でも腫瘤切除は、どの子にもできる訳ではありません。
お母さんの心配がどこにあるのか、それと、これまでの信頼関係があってご提案できるものかも知れません。
僕の方も言い出した者としてしっかりと仕上げる責任がありますし、飼主さんも少しばかりのリスクを負わなければなりません。
今回は、双方にとっても、ワンコさんにとってもよい結果になりました。
デキモノとともに、お母さんの悩みも取り除けたのではないか、そう期待するできごとでした。