もう歩けるんですね。 -犬の膀胱結石-
暖かい日の後には、降雨と寒い日がやってきますね。しばらくはこの繰り返しでしょうから、体調管理が大切になります。
そして明日は東京マラソンですね。
しばらく血尿に悩まされていたワンコがいます。
原因は膀胱結石ですが、高齢であること、てんかんの病歴があること、1回の膀胱結石摘出手術歴などから、全身麻酔が必要な手術を見送ってきました。すると、血尿は見られなくなり、てんかん発作の頻度も低下してきました。
穏やかな状態が結構続いてはいたのですが、再度血尿が見られ始めました。
ご家族の方も、また治るだろうと、あまり深刻な様子はありませんでした。
レントゲンで検査をしますと、膀胱の中の結石は以前に検査をしたときと同じ大きさで膀胱内に留まっているようです。大きさはおおよそ直径で1cmはあります。
レントゲンの写り方からは、シュウ酸カルシウムと呼ばれる結石が疑われました。シュウ酸カルシウム結石は、カルシウムを含むので、レントゲンにくっきりと写ります。問題なのは、食事療法などで溶かすことができないということです。
これらの情報は、初めの血尿が見られたときからわかってはいたことでしたが、再度ご家族にお話をしました。
食事療法をしっかりとされるご家族ですので、まずは結石を取り除いて、その後に適切な食事を選ぶことで、再発は最小限にできるだというとお伝えしました。
このワンコとは、長い付き合いです。
10年以上になります。
てんかんの病歴がありますから、少なくとも1か月に1回は来院されます。このとても手のかかる子は、それが故にとっても可愛く、僕も思い入れがあります。
思い出すのは当院ができて2年目のことです。
僕が整形外科の手術をまだほとんどやったことがなかったときです。(そんな時もありました)
AO Foundationが行う動物のコースに参加しました。
AO Foundationとは、1958年にスイスで創設された骨折治療に関する研究グループです。はじめは13名の(ヒトの)外科医から始まりましたが、50年以上のときを経て、世界各国12,000人以上の整形外科医・外傷医・手術室看護師、獣医師が所属する世界有数の学術的組織となり、外傷及び骨接合法における世界標準になっています。
AOの世界標準を学ぶコースが世界各国で開催されていますが、日本で初めての獣医師向けのコースに参加しました。くじ運が良かっただけですけど。
3日間のコースが横浜で行われました。
そのときに、それまで落ち着いていたのに、急にてんかんの発作が起こり、急患として来院されました。僕はAOコースに参加するために3日間水天宮前から横浜に通っていましたから、その日のプログラムが終わるとすぐに病院に戻って治療をしました。
今では懐かしい思い出ですが、当時は結構大変なことでした。
ご家族の方とも長いお付き合いですので、手術について質問もほとんどなく、必要なお話をしたところで手術を始めました。
前回の手術の痕はほとんど残っていませんでしたが、わずかに厚みを持った部分を手掛かりに、できるだけ5年前と同じように進めました。
結石はすぐに取り除くことができましたので、早くに手術を終えることができました。
結石を摘出した膀胱を丁寧に洗浄して閉腹です。
手術時間は概ね20分ほどでしょうか。
縫合が終わり、麻酔からも順調に覚めてくれました。
夕方にご家族の方がご面会に来られ、歩いている姿に驚かれていました。
もう歩けるんですね。終わったばかりでしょ?
切開した膀胱の影響で、まだ血尿は出ますが、機嫌は良くなってくれましたよ。
抗生物質の投与と排尿確認のために数日入院ですが、お家の方は毎日面会に来られます。
どうだ?元気になったか?色々と話しかけていらっしゃいました。ワンコ入院中は、ご家族の方は寂しい思いをされています。毎日の面会の時に、少しだけ診察室に、ご家庭が再現されるような気がします。
普段はこのような環境があるのだろうと、そっと思って見ています。
明日退院予定です。本当のお家に帰れますよ。
12歳のワンコ。まだまだ元気です。