思うお別れの仕方
今日の風は春らしくて、冷たい感じがありませんね。
春を迎えることはうれしいのですが、季節の移り変わりが、時間の流れをはっきりと体感させるので、ちょっと辛いものがあります。
もう少しゆっくりと流れてくれるといいのですが、無理なお願いですね。光陰矢の如しですかね。
ワンコとのお別れがありました。
お家には4匹のワンコがいました。
3匹になってしまいました。
数年前のことです。同じお家の子で、うちで診せていただいていた子がいました。
ある日突然のお電話で、急な事故で亡くなったとの連絡をいただきました。
元気な姿を最後に見たばかりでしたから、とても驚きました。
飼い主さんのお気持ちは今になっても完全には癒えていません。
心の痛みへの時間の治癒力がまだ不足しています。
少しだけ遠くにお住まいで、それまでは近くの動物病院に行かれることもありましたが、そのときからは、当院に通っていただいております。
今回、お別れをしたのは、一番のお姉ちゃんです。
海外生活のときからの家族で、一緒に帰国されました。
それからおそらく10年ほどか、それ以上かの東京生活でした。
心臓が悪く、定期的な検査やお薬を使っている段階でした。
突然に調子が悪くなったと、夜間の診療時間のギリギリに飛び込んで来られました。
検査をしますと、肺水腫。
心臓の病気では最後の症状です。
これから回復することもよくありますし、その後かなりの長い間ほぼ普通の生活ができることもよくあります。
しかし今回は難しいと判断をしました。
飼い主さんは、数年前の事故のことで今も辛い思いをされています。
それでも、現状をしっかりとお伝えしなければなりませんので、今回は難しいかも知れません。
そのようにお話をすると、この子の最後は私の腕の中がいいんです。
涙でいっぱいになられながら、そうお話くださいました。
必要な薬を注射したり、点滴をしたりして、状態は一旦安定しました。
あとは酸素のお部屋が必要です。
飼い主さんは、無理な延命は望みません。
そのようなご希望でしたから、お家で酸素ボックスに入ってもらおうと、業者さんに連絡をしていただきました。
当院を出られて、2時間もしないうちに、お家に酸素ボックスが搬入されたようでした。
前の子は、事故が起こるまではとても元気だったのに、お母さんが呼ばれて事故の起きた動物病院に到着されたときには、身体中が管につながれて、すでに心臓も呼吸も止まっていて、どうしてももう一度目を開けて欲しいと願うお母さんの前で1時間ほど心臓マッサージを受けたそうです。
この子は結構なお年だし、今までいっぱい頑張ってくれたからと、安らかな最後を希望されていました。
入院の提案もしましたが、もしものときに、横にいてあげられないのは耐えられない。この言葉は、これまでの色々なできごとを考えますと、最も尊重すべきことでした。
お帰り際には、再度、今日か明日かも知れませんよ。そのようにお話をしました。明日、来ていただけるようだったら診察にいらしてくださいねと。
次の日の朝、お電話をいただき、もう一度注射をということになり、タクシーで向かわれました。そして、当院に到着されたときには、飼い主さんの腕の中ですでに眠りについていました。
飼い主さんは、こんな最後にしてあげたかった。
涙目でそう微笑みながら、昨日連れて帰られてからのできごとをお話くださいました。
お家に帰ってから、立ち上がってお水を飲んで。
ゆっくりと寝始めたので、添い寝をしました。
いつもは他の子に構いっぱなしだったので、昨晩はこの子とずっと一緒にいました。
どうしても最後はくるのだから、こんな最後にしてあげたかったので何も悔いはありません。
そう言われて、ありがとね、ありがとね、とワンちゃんを撫でていらっしゃいました。
その後もこの子についての色々なお話を聞かせていただき、最後にはいつもの笑顔でお話をされていました。不謹慎かも知れませんが、そう言われながら。
命はどこかで尽きるとして、最後にはこうしてあげたかったという形で見送れるのは幸せな生涯の締めくくりとしての理想形だと思います。
本当に安からな寝顔でした。