日本橋動物病院だより

日本橋動物病院だより

家族みんなの思い

なかなか晴れ続きにならないものですね。
特に今日は湿度が高すぎます

3歳の小型のワンコが来院しました。
お腹をこわしていて、なかなか治らないということでの転院でした。

いろいろとお話を聞きますと、お近くの動物病院や2-3か月前には遠くにある高度医療ができる動物病院にも行かれたとのことでした。

身体検査をすると、いくつかの異常が見られました。
下顎のことや他の体の表面のリンパ節が大きくなっています。
血液検査でも異常がみられ、ほぼ明らかに悪いものを想像してしまいます。

お腹の超音波検査でも異常があったために、飼主さんにお話をして、お腹に針をさして細胞検査をすることにしました。

出た結果はリンパ腫。

全身に及ぶ悪性のいわゆる「がん」です。
(正式には「がん」とはいいませんが、よく使われる「がん」と同じことなので、「がん」ということで続けます。)
まだ3歳ということで、いくつかの動物病院では見落とされてしまったのかも知れません。

ここからはどのように治療していくかのご相談になりました。
この病気は外科手術で取り除くことはできません。
基本的に抗がん剤をつかうかどうかです。
使わなかった場合は、無処置で自然に任せることになります。

僕は抗がん剤(化学療法)をすすめました。

ヒトのリンパ腫は化学療法で治る可能性のあるものとして、あげられています。
完治と言ってよいものかどうかですが、病気の兆候がみられない状態(寛解期)が5年以上続けば、よくなったと見てもよさそうです。

犬では完治の話は聞いていませんが、よい状態が得られる子をよく見ます。
副作用は始めのころには見られることがありますが、重篤なもの2回目からはほぼ見られません。

飼主さんの決断は。
抗がん剤はできるだけ使いたくはない。
ということでした。

飼主さんのご希望の中で、どうしてもお伝えしたいことがありました。
この子は目が大きい子ですが、その目がさらに少し出ているように見えます。
これは目の奥にも「がん」があって、それが奥から目を押していると予想されました。
どうにかこの「がん」を小さくできないと、目の変形がかなり進んだり、顔の印象がかなり変わることが予想されます。
毎日みる顔が変形したら。

それと、飼主さんは僕が思うよりも化学療法の副作用がずっとずっと強烈に現れると思われているようでした。

お医者さんも、自分ががんになっても抗がん剤は使わないって言うじゃないですか。
これはご家族のお一人がお話しされたことです。
確かに僕も自身が肝臓がんだとか膵臓がんだとかの場合は希望しないかもしれません。
しかしながら、白血病やリンパ腫なら、できるだけ早めに始めたいと思っています。
抗がん剤を使った治療方法はいくつかあります。
それぞれのプログラム毎に名前がついています。
僕がおすすめしたのはウィスコンシンプログラムと呼ばれるもので、よい状態が結構続く印象があります。

これとは別にお勧めしたのは時間のかかる点滴ではなく、抗がん剤を1週間に1回注射をしながら、別の薬を毎日薬を飲むというものです。
効果は限定的です。
しかし一定の効果は実感できます。

飼主さんは、
1.抗がん剤プログラム
2.簡易的な抗がん剤治療
3.ステロイドを飲むだけ
4.何もしない
の中から選択することになりました。
できれば1をご選択いただければと思いました。
はじめ3を選ぼうとされましたが、これだとほとんど効果が期待できないために、どうにかせめて2にしませんかと強くお勧めしてしまいました。

僕はこの後にどのようになっていくかがおおよそわかります。
そのこともお伝えしましたが、ご家族のなかに以前抗がん治療を受けられた方がおありか、何となく体験に基づくと思われる消極的な感じを受けました。

まずは1回目の注射をしまして、1週間後の2回目のときには体の表面のリンパ節はほとんど触れないくらいに小さくなっていました。
飼主さんからも副作用のようなものは何も見られませんでした。とのお話をいただきました。
眼圧が上がって、浮腫を起こしていた角膜も透明に戻っていました。

そして3回目のとき。
この子とはあとどれくらい一緒にいられるでしょうか。
余命についてのご質問です。
おおよそこれくらいではないでしょうか。
予想をお伝えしました。

いろいろと多くは望んではいないんです。
そう言われ、覚悟のような、少しあきらめのような。
ただ救いはワンコがとても元気なことです。

いつかは来るお別れの日。
ある程度具体的なものになる中で、できるだけ長くを望んだり、でも辛いかも知れない治療は避けたかったり、いろいろな思惑があります。

僕はこれまで一緒に過ごしてきた最後にご家族とこのワンコがお互いに「ありがとう」とお別れできるようにどれだけお手伝いができるかが仕事になりますから、治すことができない病気を判断した後はとにかくご意向を尊重するのみです。

次も前回のように笑顔で来院してもらえるとよいのですが。
期待しています。