特別な思い -犬の全身麻酔-
水天宮前の桜が見頃です。
きっと満開です。
昨日は全身麻酔をかけての手術と処置がありました。
どちらもそれぞれの飼主さんには特別な思いがおありでした。
まずお一人目。
ワンコ数匹と生活されています。
今回はトリマーさんにご指摘されたとのことで、歯がぐらぐらして少し血液の混ざったよだれを治療したいということで全身麻酔で歯科処置をすることになりました。
以前にとてもかわいがっていらした一番若いワンコを亡くされたことがおありです。
この飼主さんは当院からやや遠いところにお住まいです。
お知り合いの方の紹介で近所の動物病院に不妊手術に連れて行かれ、そのワンコは手術直後に亡くなりました。とても元気で人懐っこく、皆から愛されるワンコでした。
その動物病院からのご説明には何も納得できることはなく、長いこととても辛い悲しみを抱えていらっしゃいます。
トリマーさんからの歯のトラブルについてのご指摘は以前からあったようですが、手術ではないとはいえ、全身麻酔での処置にはかなりの不安がおありのようでした。
しかもこの子は今回の身体検査で心臓に病気があることがわかりました。
やや麻酔リスクが高いことをお伝えしなければなりませんでした。
飼主さんのご様子から、「心臓の病気がありますから全身麻酔のリスクが高いです。」などとお話をするには、かなり慎重にお言葉を選択して、安心して頂く必要があります。
一般状態から、まず問題がないだろうと判断しておりますので、お任せくださいとお伝えし、もちろん、全身麻酔リスクもお話ししてから処置を進めました。
特別な問題もなく、予定していた処置と、全身麻酔をかけなければできない検査を終えることができました。
麻酔から覚めると10分くらいで立ち上がって歩くほどになっています。
すぐにでもお電話で無事に終わったご報告をしたかたのですが、前に亡くなったワンコのときも一度は麻酔から覚めましたと報告を受けた直後に急変のお知らせを受け取られたようでしたので、まずは1時間ほど様子を観察してからご報告をしました。
麻酔から覚めて1時間が経ちます。順調でしたよ。
そうお伝えすると、飼主さんは涙されているようでした。
その後は笑顔だったのでしょう、声が明るくなり、よかったよかったと安心されている様子でした。
この子のためだけではなく、他にも一緒に暮らしているワンコがいます。
その子達にも何かの目的で全身麻酔をしなければならないことが起こるかも知れません。
そのときのご判断を適切にしていただくためにも、今回は明るい結果をお届けしなければなりませんでした。
他に歯石を取って欲しい子がいます。
お電話の最後にそのようにお話しくださり、次に別の子の歯科処置を全身麻酔を行うことになりました。
もっともっと安心していただけるよう、僕たちでできることをしっかりとやるつもりです。
お二人目のお話です。
避妊手術で来院された仔犬ちゃんです。
普段手術は笑顔でお受けして笑顔でお返しする。ことを信条としていますので、あまり深刻なリスクのお話にはなりませんが、今回の飼主さんはお知り合いからのお話にとても不安をもたれたようで、一度手術予定をキャンセルされた方です。
やらない方がいいと言われたんです。
お知り合いにそのようにご忠告され、とても悩んでいらっしゃいました。
どのような場合も絶対に獣医師側のミスがあってはいけないわけですが、このような場合、お知り合いの方からの忠告に反して避妊手術をご決断されていますので、「絶対」がないものではありますが、特別な思いで手術にのぞむことになります。
いつもの手技をいつものように。
一つずつ、これまで何度も行ってきた手技をすすめます。
留置針という針を血管に挿入します。
点滴をはじめながら、麻酔をはじめ、お腹の消毒、そして切開。
「絶対」がないところで毎回思うのは、しっかりと手順を踏めばちゃんと終わるということです。これまで一度だって失敗はなかったのだから。
このようなときだけは過去の成功体験を精神的な糧にするしかありません。
たかが避妊手術です。
されど。
慣れてきて、気を抜いたところに多くの危険があるはずです。
願わくば、そのような危険と遭遇することなく進んでいきたいと願っています。
僕はきっと臆病者ですが、このようなときにはそれでいいのだと考えています。
単純な手技の手術でも、とても難易度の高い手術でも、同じように慎重にやれることは大切なことだと思っています。
飼主さんからは手術後に2回お電話がありました。
どれだけ心配されていたか察しますと、当然のように無事に終わったことは何よりでした。
飼主さんはご自身の選択を信じて僕に大切な命を託してくださったわけですから、その思いに比べてわずかかも知れませんが、こちらも懸命にお応えできた気がします。
避妊手術なのになんて大げさな、そんなお声もあるかも知れませんが、お一人目の飼主さんのように、心的トラウマを抱えて辛い思いを長くされることもあるものですから、毎回とにかく慎重に、そして笑顔で受けて笑顔でお返しできるようにしていきたいと思っています。
今日は二人とも笑顔で退院の予定です