まだまだ元気だから -犬の鼻腔内腫瘍-
風が急に冷たくなりましたね。
今朝いつものパーカーを着て外に出ましたが寒かったですね。
ユニクロの厚手のかなり気に入っているパーカーで、先月アメリカに行く時にもしかしてあちらは寒いかもしれないと思って成田空港で買って以来かなりの頻度で着ているものですが、これだけでは冬は乗り切れそうにありませんね。
当然のことですが。
つい先日のことです。
お電話がありました。
犬のガムが奥歯にささって苦しそうにしているとのことでした。
早速来院してもらい、見てみますと、確かに左の奥歯にヒトの親指ほどのガムがかなりしっかりと食い込んでいてワンコも閉じることができない口に少し興奮気味でした。
一瞬で取り除けないかとガムをつかんで取ろうとしましたが、あまりにも深く食い込んでいいるのと、ワンコも興奮しているので、とても取ることができませんでした。
飼主さんにお話をして、ワンコには少しだけ鎮静薬で寝てもらい、その間に取りましょうと提案して取り除きました。
それでもやや粘稠性のある硬いガムは強く奥歯に食い込んでいまして、かなりの力が必要でした。
ガムが取れた後はワンコはすぐに目を覚まし、何事もなかったかのようにしていました。
ワンコはかなり前に来院したことがあったのですが、その後お引っ越しをされて近くにある違う動物病院に通われていたとのことでした。
ガムの件がある前から当院でいろいろとご相談したいことがあり、こちらへの来院を考えていらっしゃったときにたまたまガムが挟まってしまったとのことでした。
ガムの件の後、数日してから資料等をもって再度来院したいとのことでした。
そのときはどのような用件かがまだよくわかりませんでしたが、数日後の来院で詳しくお話くださいました。
近くにある違う動物病院での診察の話です。
いわゆるセカンドオピニオンを求められました。
長いこと時々鼻血がでるというご相談でした。
鼻血がでる度に薬を受け取り、よくなることもあるし、あまりよくならないこともあるしとのことでした。
あまりにも長く続いて鼻もスッキリとしないので、相談したいのだというお話でした。
一見すると外観はまったく問題がないように見えます。
しかし左の目がやや下向きです。
まぶたを広げてよく見ないとわかりませんし、さらに左右の目を同時に比べないととてもわかりにくいのですが、明らかにおかしな所見です。
口の中は前回のガムの件で調べていますから、今わかる異常は鼻からの出血と目のことです。
鼻から目にかけて大きな病気がある可能性があります。
悪い予想としては腫瘍です。
飼主さんにCTとMRIという画像診断をしましょうと提案しました。
これらは全身麻酔で行う検査ですが、かなり多くのことがわかる検査です。
費用も結構かかりますが、飼主さんは鼻血がでては薬ということにややお疲れのようでしたので、原因を追求しなければ繰り返すばかりでよくならないと、検査を希望されました。
結果はよくありません。
悪い予想のとおりで、鼻の奥からやや頭まで腫瘍が広がっていました。
そしてさらによくないことは、レントゲンではわからなかった肺への転移も見つかりました。
これは大変に小さい転移病変ですので、今再度レントゲン検査を行っても見つからないだろうと思いますが、今後わかるくらいに大きくなる可能性があります。
飼主さんはこのような結果ではありましたが、しっかりと受け止めていらっしゃって、手術はしない。できるだけ苦痛を取り除くことに集中したいとのお気持ちでした。
まだまだ元気です。
本当によく見ないとわからないくらいに、普通に見ただけではどこかわるいところがあるのかわからないくらいです。
前の動物病院での診察に問題があったか否かについてはコメントが難しいのですが、自戒という意味でも、確定診断を考えながら治療を進めないと、漫然とした対処療法だけでは手遅れになることもあるということでしょう。
動物病院でみる病気のほとんどは対処療法で治ります。
しかし時に対処療法では解決できない問題が起こります。
今回ワンコはまだまだ元気ですし、飼主さんも大変に前向きでいらっしゃって、楽しい生活はもっともっと続けられると思います。散歩もたくさんできると思います。
その中でゆっくりとお別れの心づもりもできると思います。
かなり悪くなってから病気の正体がわかり、このようにゆっくりとお別れまでの時間を過ごすことができない子もたくさんいることを考えると、どのような最後を迎えるのかという点ではこの子はよい方かも知れません。
飼主さんは結局何もできない僕に何度もありがとうと言われ、これからもお願いしますと言ってくださいました。
とにかく長く続いた鼻血の原因がわかったこと、まだまだ元気だから楽しい思い出はこれからも作れること、無理な治療以外にも選択肢を提示されたことがよかったのだとお話くださいました。
この子が幸せでいられたらそれでいいですから。
そのお話の後、この後に起こるかも知れない良いことと悪いことをわかる範囲でお話しして、その都度できる範囲で治療計画の再検討を重ねながら行っていきましょうということになりました。
いつかはお別れがきます。
避けられないお別れであるならば、どのようにそのときを迎えるか。
獣医師として動物達に永遠の命を提供することはできません。
しかし、この病気はこのように進む、あるいは治る、またはうまくつきあうべきものですなどと言った見通しをお話しし、ともに進むことはできると思います。
最後のときまで何かしらのお力になれればと思っています。