お母さんが元気になりましたよ! -犬の脾臓摘出-
寒い雨の日になると聞いていましたが、結構動き回っているせいか、暑いくらいに感じます。当然ながら雨降りではありますが
それは19日(日)のことでした。
午後の診察のときに、目やにが気になるという小型のワンコがお母さんと来院しました。
見るとワンコはペロッ、ペロッと自分の口の周りを毛を舐めています。
あれっ?瞬間的に何か違和感がありました。
じっくりと見てみないとよくわかりませんでしたので、唇をそっとめくって見てみました。
やっぱりかなり舌が白くなっています。
お母さんはいつものように、とてもお元気で笑顔で会話されています。
しかし僕の表情の変化にお気付きになって、はじめて笑顔ではなくなりました。
どうかしましたか?
確かにそうです。
目やにの診察で来院されているのに、目よりも口の中を見ているわけですから。
かなりの貧血がありそうです。
そう言いながら、いくつか検査をしましょう。
多くをお任せいただくことが多いので、そのまま検査をすることになりました。
僕は最近になって、かなり直感を大切にするようになりました。
はじめの「あれっ?」をかなり大切にしています。
これまではあれっ?と思って検査をしても空振りに終わる、いわゆる杞憂に終わることも体験しましたが、結局のところ、その違和感は最終的には切り捨ててはいけなかったというのが結論になっています。
舌が白く見えるもそうです。
これまで何度もそう見えて、でも調べると問題がないという体験があります。
それでも無視するには目立った白さでした。
血液検査を行い、レントゲン検査、お腹の超音波検査(エコー)を行いました。
大変に厳しい貧血があることと、とても大きな脾臓があることがわかりました。
体重が2kgほどしかない小型のワンコのお腹はほぼ大きくなった脾臓でいっぱいでした。
お母さんに検査結果をお伝えし、できれば早くに脾臓を取り除く手術をしましょうと提案しました。
うちで手術ができるのは早くても2日後の21日(火)です。
目やにの診察で来院されたのに、命に係る大きな問題が見つかりました。
お母さんのお顔の方が蒼白になるのではないかと心配しました。
はっきりと言えることは、とても重い貧血があることと、とても大きな脾臓があり、リスク覚悟で脾臓を取り除かなければならないということです。
脾臓は腫瘍かも知れませんし、違うかもしれません。
いずれにしても、大きすぎて他の臓器をかなり圧迫していますから残して治すという選択はありません。
手術の選択を決断され、予定どおりに21日(火)に手術をすることにしました。
脾臓を取り除く手術です。
輸血の準備もできていますので、必要ならすぐに輸血ができる状態で手術開始です。
8歳、女の子、普通でも輸血が必要なくらいの貧血、そしてお腹いっぱいに大きくなった脾臓、さらには体重はわずかに2kg。
お嬢様が海外の大学に留学中で、生死に係ることを知らせるべきか迷っていらっしゃいました。
普段ならば是非お知らせされた方がよいと思いますとお声をかけますが、今回は何も言えませんでした。
手術直前にワンコをお預かりするときに、お嬢様にご連絡をされ、写真も添付して送られたとのことでしたので、手術後に元気な顔を送ってもらえるようにという想いで手術にのぞみました。
脾臓を摘出することは外科手術としては難しい手術ではありません。
しかし今回は糸の端が触れただけでジワーッと出血が始まります。
それにしてもとても大きな脾臓でした。
普段の切開ではお腹からだすことができず、切開を広げながらどうにか脾臓をだすことができました。
ここからは血管を一つずつ処理しながら脾臓を取り出して行きます。
かなりの貧血ですから、輸血の準備があるとは言え、できれるだけ出血を最小限にする必要があります。
慎重に慎重に手術をすすめました。
結果的には本当にわずかな出血で終わることができ、脾臓も無事に摘出ができました。
少し多きかったお腹も小さくなり、元の小型のワンコに戻りました。
夕方の手術直後にご面会に来られました。
朝は小さな声だったお母さんも、いつもの元気な声になってらっしゃいました。
何よりこの小さなワンコはあれだけ大きな変化があったにも係らずに、すごく食欲があります。
まずは取り除いた脾臓の病理検査をまちますが、このままよくなってくれるように薬を使った治療をすすめています。
今日は術後1日目ですが、今日もワンコがとても元気なので、お母さんも本当に笑顔になって頂くことができました。
病気がわかってからよく眠れなくて、でも昨日は久しぶりにぐっすりと眠れましたとお話をしてくださいました。
これから治療が続きますが、このまま無事に退院できますようにできるだけのことをするつもりです。