顔が腫れました - 根尖周囲膿瘍 –
蒸しますね。梅雨空けが待ち遠しいなか、台風も接近中ですので、きれいに晴れ渡った青空はしばらくお預けのようですね。
京都で仕事をしていたときに同期で仕事を始めた獣医師が開業し、その動物病院のホームページができたとのことで連絡がありました。
→たかやま動物病院へのリンク
たいへん過酷な仕事を17年間続けた末の開業です。
元の動物病院では多くの信頼できる獣医師が多くいました。
辞めるとともに全ての獣医師が元の動物病院とは関わりがなくなりますが、そこにいた獣医師同士は交流が続きます。
今回、唯一の同期入社である高山先生との交流再会がとてもうれしいことになりました。
来院されたのは左頬が腫れて、そこに小さな穴が空いて膿みが出ているワンちゃんです。
この子は他の動物病院から転院されてきた子で、当院に来院されたのは数か月前です。
乳がんが骨盤や肺に転移をしています。
尿道も狭くなっていて、最初の頃はうまく排泄ができませんでした。
尿道に管を入れてオシッコができるようにしていましたが、そのうちに管を入れていたせいか尿道がある程度広がって、管がなくても困らなくなりました。
CTの検査では溶けて小さくなった骨盤がとても痛々しく、転移が認められた肺もこの先あまり長くはないだろうと思わせるものでした。
飼主さんは歯医者さんで、以前にも他の動物病院で歯を抜かなければならないと言われた時に、ご自身でお知り合いに麻酔を掛けてもらって抜歯をされたことのある方です。
しかし今回は状況がかなり異なります。
まず頬を腫らしている歯は左の上の大きな歯(左上顎第三および第四前臼歯)です。
特に第四前臼歯という歯は3根歯という根っこが3本もある歯です。
触った感じではグラつきはありません。
この歯を抜くには3つに分割する必要があります。
そしてそのために必要なことは全身麻酔です。
数か月で20%も体重が落ちてしまってうまく立つことができません。
最高で4kg以上はあった体重が今は1.6kgになっています。
このまま消毒だけで管理しましょうというのが多くの意見かも知れません。
全身麻酔をかけて分割して抜歯して、さらに抜いたところをきれいにして歯茎を縫うということはなかなか決断に勇気が必要です。
飼主さんもあと1か月くらいだろうかと、余命には過度な期待はされていません。
その中での歯の問題です。
選択肢をお伝えし、ご本人が歯医者さんであるので、ご希望に従いますとお話をしました。
その日のうちに、翌日の全身麻酔を行っての抜歯を希望されました。
いろいろな問題点が多い処置になります。
麻酔中に亡くなってしまうこともあります。
とにかく慎重にとの思いがあります。
飼主さんに一応の危険についてのお話をしワンちゃんをお預かりしました。
麻酔前の検査や点滴はいつものとおりに行いました。
当院では幸いにもこれまで麻酔で亡くなったこはいません。
無難な手術だけではなく、かなりリスクの高い手術も行ってきましたが、今回もリスクレベルで言いますと屈指の困難さであることはスタッフ全員が認識していました。
慎重に慎重に麻酔をかけて、腫瘍が転移している肺のことも考えながら歯科処置をはじめました。
まずは歯石を少し取り除き、歯茎にメスを入れてめくります。
その後、歯の周辺の歯槽骨という骨を削り、歯の根っこが見えてきたところでドリルで分割します。
順調にいくと思われましたが、ワンちゃんは顎の関節があまり開かなくなっていまいしたので、ドリルがいつものようには使えません。
小さな隙間からドリルを入れてどうにか分割をし、特別な道具を使って抜歯をすすめて行きます。
血液検査では貧血があり、血小板もかなり少ないこともわかっていましたから、出血には細心の注意が必要でした。
少しずつすすめて行き、はじめに想定していたときより時間がかかりましたが、どうにか終わらせることができました。
抜歯をして抜いたところを掻爬して、頬の穴もきれいにしてから縫いました。
麻酔中の状態も安定していたので、歯石もとり、それぞれの歯を研磨しました。
麻酔から覚めるかどうかという不安もありましたが、かなり安定した覚め方をしてくれました。
飼主さんもいろいろな覚悟がおありだったと思いますが、来院されたときと同じ位の体調で帰ってもらうことができました。
とても困難なものでしたが、ワンちゃんの頑張りにより、無事に予定していたことは全て終わらせることができました。
歯医者さんのワンちゃん。
これからの時間は長くはありません。
しかしながら、治せるところはしっかりと良くなったと思います。
きれいな歯で、少しだけでも快適に過ごせると何よりも嬉しいことだと思っています。