遠距離の想い
おばあちゃんの号泣からはじまりました。
いつものカートからチワワちゃんがキョトンとした顔を出しています。
前日におばあちゃんのご家族の方がご相談に見えました。
お話によると、チワワちゃんと二人暮らしをされているおばあちゃんが介護施設に行くことが決まったとのことでした。
おばあちゃんはチワワちゃんとお別れしなければならないと言うことでした。
少し前に、おばあちゃんは嬉しそうに来院されました。
現在お住まいのご自宅から近くのマンションに引っ越すというお話でした。
チワワちゃんをなでながら、「この子と離れることさえなければ、どんなことだって構わない」、そうお話しされました。
やっと動物を飼えるマンションが見つかったと。
そのお話から間もなく、ご家族の方からのご相談があり、その後におばあちゃんが涙されながらの来院があり。
チワワちゃんはそのご家族の方が引き取られます。
しかしながら、介護施設からははるかに遠い、海の彼方。
中国です。
涙ながらに来院されたのは、そのチワワちゃんの渡航準備のための予防接種などのためです。
僕は前に働いていた動物病院の頃から、おばあちゃんが連れて来られるこのチワワちゃんを診せて頂いておりました。
不妊手術をしたり、毎月の予防をしたり。
とにかくおとなしいチワワちゃんで、おばあちゃんの自慢です。
横浜にご旅行されるときも、ご自身が内科を受診されるときも、時には買い物も一緒です。
内科の先生はチワワちゃんを迎えたから元気になったのだと言われるの。よくそうお話されていました。
僕が今の動物病院を始めたことで、おばあちゃんのお住まいからは少し遠くなってしまいましたが、それでもとても痛そうなご自身の足をかばいながら、定期的に来院されています。
いつもの診療では、よく昔話を聞かせていただきました。
大戦の炎に包まれた新大橋周辺のことなども、清澄公園の長屋のお話も。
それが、昨日の診療は号泣からはじまりました。
離れなければならないことは理解している。
それが良いこともわかる。
ただ、辛いだけ。
そうお話されました。
ご家族のお話では、6歳を迎えたチワワちゃんを引き取ってくれる方を探すのは困難だから、探す努力はしながらも、生活の場である中国へ連れて行く準備もしなければならないと言うことです。
必ずまた会えますよ。
そうお話しするのがやっとでした。
まだ時間があります。
よい方法が見つかるかも知れません。