【犬の下痢の原因:腸リンパ管拡張症】獣医師が解説します。

概要

腸リンパ管拡張症は、小腸の粘膜や粘膜下層にあるリンパ管が拡張したり、リンパ液の流れが正常に行われなくなって起こります。その結果、一般的に腸の粘膜から腸の内腔にタンパク質が漏れ出します。これによって低タンパク血症や低コレステロール血症がおこり、体重減少慢性下痢がみられるようになります。治療の基本は食事療法で、超低脂肪食を与えます。その他にグルココルチコイドや免疫抑制剤を使います。特に原発性の場合には、食事療法に従い、生涯にわたる管理・治療が必要です。

ほとんどが原発性疾患ですが、その他に、心不全、大静脈閉鎖そして肝疾患などの全身性疾患から続発性に生じることがあります。確定診断には、腸内視鏡検査による超粘膜生検、または試験開腹手術での腸全層生検を行います。

獣医師
獣医師

犬の下痢の原因はさまざまです。

その原因を知りたい方は多いはずですが、獣医師の説明がよくわからずに、とりあえずお薬だけを飲ませているという方も多いのではないでしょうか。

さよ
さよ

この病気は治るの?治らないの?

あなたの犬に、下のような症状はありませんか?

  • 1週間を超える下痢
  • 動物病院で薬をもらって飲ませても、あまり良くならない。
  • お薬を飲ませている時だけ下痢が改善するけれども、やめるとすぐに下痢になる
  • 食欲が不安定
  • 痩せてきた
  • お腹が膨らんできた
  • 呼吸が辛そう

この病気は、基本的には完治しません。
生涯に渡る管理が必要です。
犬の下痢のさまざまな原因の中から、腸リンパ管拡張症について解説します。

目次

腸リンパ管拡張症の基本的な情報

腸リンパ管が拡張する病気です。

口から入った食べ物は、食道→胃→小腸と運ばれて行きます。その小腸の食べ物が通るところが小腸内腔ですが、この小腸内腔の表面(小腸の粘膜面)は絨毛と呼ばれる突起で覆われています。

腸絨毛の中には、動脈、静脈の毛細血管毛細リンパ管が走行しています。
・毛細血管にはアミノ酸ブドウ糖が吸収されます。
・毛細リンパ管には、グリセロール脂肪酸が吸収され、最終的に静脈に運ばれます。

絨毛にある突起には、赤い色で示した動脈、青い色で示した静脈の他に、黄色で示したリンパ管が存在しています。この黄色で示したリンパ管が、右の図のように拡張するのが、腸リンパ管拡張症です。この腸リンパ管の異常は、一般的に蛋白喪失性腸症を引き起こします。

どのような病気?

タンパク質が腸の中に漏れ出す病気です。それによって、血液中のアルブミングロブリンと呼ばれるタンパク質が少なくなります。これを低アルブミン血症とか、低グロブリン血症などと呼んでいます。→低アルブミン血症についての記事

<このようにして腸からタンパク質が漏れ出す>

腸からタンパク質喪失は、関連する疾患(後述の記事参照↓)が単独、または複数組み合わされて起こります。

腸のリンパ管の異常は、リンパ液の漏れを引き起こす
リンパ液の通り道であるリンパ菅に異常が起こることで、リンパ液が漏れ出します。

腸の透過性亢進で、タンパク質喪失が起こる
リンパ液には、タンパク質が多く含まれるため、リンパ液が漏れることで、体内に留めるべきタンパク質を失いことになります。

腸粘膜の糜爛(びらん)や潰瘍の結果、タンパク質喪失が起こる
糜爛(びらん)とは、腸の表面の浅い部分が傷むものです。潰瘍とは、腸の表面が糜爛(びらん)より深く傷むものです。糜爛(びらん)では出血を伴いませんが、潰瘍は深い傷ですので、出血がみられます。腸の表面にこのような傷ができるとタンパク質が漏れ出す原因になります。

静脈圧上昇によりタンパク質喪失が起こる
リンパ管は、最終的に静脈につながっています。その静脈の圧力が高くなると、結果としてリンパ管に及ぶ圧力も高くなります。結果として、タンパク質が腸に漏れ出す原因になります。

胃腸の疾患や機能不全は、腸タンパク質漏出性腸症を引き起こることがあり、結果、低アルブミン血症や低グロブリン血症が起こります。

リンパ液の中にあるもの
・タンパク質
・リンパ球
・カイロミクロン
・脂肪

これらのうち、タンパク質、リンパ球、カイロミクロンが、リンパ管から外に漏れ出します。リンパ管の外には、粘膜化組織、粘膜固有層があり、さらに管腔へ漏れ出します。管腔とは、通常は食べ物が通るところです。管腔内に漏れ出したタンパク質は、消化され、再度リンパ管から吸収されます。

血液中のアルブミンが増えるよりも、腸から漏れ出して喪失される量が多いと低アルブミン血症が起こります。

腸リンパ管拡張症では低アルブミン血症が起こる


<アルブミンが増える>
・食事によって腸から吸収される
・一度漏れ出したタンパク質が再度吸収される
・肝臓で合成される

<アルブミンが減る>
・腸から漏れ出す

低アルブミン血症の結果として、膠質浸透圧低下、液体の腸腔内漏出、抹消性浮腫、腹水、胸水が起こります。
濃度が異なる液体が隣り合うとき、濃度が薄い方から濃い方へ液体が浸透して、濃度が同じになるように働きます。血液中のアルブミンが減ることで、血液から水分が漏れ出す現象が起こります。これによって、腸の内腔や組織に水分過多によるむくみが生じたり、腹水や胸水という液体そのものを蓄える変化が起こります

アンチトロンビンを含む抗凝固タンパク質の喪失で、血液凝固亢進状態に至ります。
血液に中には、血液が固まろうとする働きにブレーキをかけるアンチトロンビンと呼ばれるタンパク質が存在します。腸の中に漏れ出すタンパク質には、このアンチトロンビンが含まれます。すると、血液が固まろうとする働きにブレーキをかける成分(アンチトロンビン)が少なくなることで、血液が固まりやすい状態になります。これを血液凝固亢進状態と呼んでいます。

リンパ管内の脂肪が腸管壁に漏れ出すと、肉芽と呼ばれるものができてしまい、さらにリンパ管の閉塞を悪化させることになります。

原因

腸リンパ管拡張症のほとんどは、原因がはっきりとわかってはいません。これを特発性と表現しています。その他に、腸リンパ管拡張症を起こす可能性のあるいくつかの病気が知られています。

・リンパ管閉塞
・心外膜炎
・右側心不全
・浸潤性腸管膜リンパ節疾患
・浸潤性腸粘膜疾患
・先天的異常
・肝疾患

原発性の腸リンパ管拡張症は、ヨークシャー・テリアに多いとされていました。しかし、最近では、ヨークシャー・テリアでも、そのほとんどで、小腸粘膜に炎症が見られることがわかってきました。原発性、すなわち、他には病気がなくても起こる腸リンパ管拡張症と考えられていたところ、腸炎が起こっていることがわかっています。

関連する疾患

腸リンパ管拡張症に関連する病気があります。関連するとは、腸リンパ管拡張症という診断が立った場合に、獣医師がさらに検討するべき疾患です。同時に起こっていたり、関連がある以下の病気を検討する必要があります。

・炎症性腸疾患(IBD)→IBDについての記事
・食物有害事象(例、グルテン過敏性腸症)
・胃腸感染症(例、ヒストプラズマ症、サルモネラ症、鉤虫症)
・腸腫瘍(例、リンパ腫、腺癌)
・機械的腸疾患(例、長期経過の異物、慢性的な腸重積)
・胃腸潰瘍
・リンパ管易感染性/機能不全
・静脈性高血圧症(門脈圧亢進症、右側心疾患、心膜疾患)
・低血漿膠質浸透圧
  腹水、胸水、浮腫
・潰瘍性または糜爛性胃腸疾患に続発する貧血
  小赤血球症は、鉄欠乏を示唆している
・アンチトロンビン喪失による血栓塞栓性の合併症
  影響を受ける可能性があるのは、肺、脳、そして四肢

犬に見られる変化→健康な犬との違いは?

腸リンパ管拡張症で最初に見られるのは、小腸性下痢と漏出性腹水です。小腸性下痢については、下の記事で詳しく説明をしております。

その他の症状は、嘔吐、体重減少、浮腫ですが、中には無症状で、健康診断やその他の病気の検査のときに、偶然に発見されることもあります。

私が身体検査でみるポイント→注意してみるところはどこ?

私が、診察で最も大切にしているのは、問診と触診です。

獣医師
獣医師

身体検査や、その他の検査では次の項目を見るようにしています。

・血液検査でアルブミン(ALB)の数値が低くはないか
この血液検査結果以外に、何も異常がない犬もいます。無症状ということです。

体重
一般的には、体重減少が見られます。そして、体重減少が唯一の症状ということもあります。


痩せ細ってはいないか
いつから痩せ始めたのか

慢性的な下痢
下痢がみられないこともあります

腹水、抹消性浮腫
腹水があると、お腹が膨らんでみえます。腹水の量が多いと、呼吸困難になることがあります

胸水、難治性腹水、肺血栓塞栓症を伴う呼吸困難や頻呼吸
肺血栓塞栓症は、中枢神経症状や四肢の機能障害でもみられます

直腸検査での軟便、メレナ

診断→どうしたら、この病気と断定できるの?

確定診断のためには、病理組織学的検査が必要です。
病理組織学的検査とは、腸の組織を顕微鏡で観察するということです。
そのためには、腸の組織を取る必要があります。

<腸の組織を取る2つの方法>

・消化管内視鏡
・試験的開腹手術

どちらも全身麻酔が必要ですが、重度の低アルブミン血症の動物では、危険を伴います。
消化管内視鏡では、腸粘膜の評価と粘膜のサンプルと取ることができます。
試験的開腹手術であれば、粘膜だけではなく、腸の厚さの全てである全層生検という
より情報量の多い検査を行うことができます。検査精度としては、試験的開腹手術で得られるサンプルが優位です。

<試験的開腹手術のリスク>

全身麻酔が必要ということは、消化管内視鏡検査と同じで、重度の低アルブミン血症であれば危険を伴います。
さらに、腸にメスを入れることになります。このメスを入れたところは、溶ける糸を使って縫いますが、そこが
しっかりと付かないことがあります。感染や、低アルブミン血症の場合には、そのリスクが高くなります。

獣医師がどうぶつの病気の診断を行うとき、どうぶつのご家族からの問診や診察結果から、まずは症状を洗い出します。その症状から考えられる病気のリストを作成します。これを鑑別診断リストと呼んでいます。鑑別診断リストにどれほど多くの病名を列挙できるかが獣医師の経験や知識の裏付けだと考えています。

<低アルブミン血症を引き起こす病気:類症鑑別>

・蛋白喪失性腎症(PLN)
・肝疾患
・グルココルチコイド欠乏(副腎皮質機能低下症、非定型アジソン病)→アジソン病の解説記事
・タンパク質栄養障害
・アルブミンの脈管性間隙からの喪失
腹膜炎、胸膜炎、血管炎、重度の皮膚熱傷または滲出液性皮膚炎、消化管出血または寄生虫症

<最低限必要な検査>

腸リンパ管拡張症と診断するために必要な検査は、病理組織学的検査です。それ以外に、通常行う検査をご紹介します。

CBC(全血球数算定)

貧血がみられることがあります。貧血の原因は、胃腸からの出血や慢性炎症によるものです。貧血のタイプには、小赤血球症(低色素性貧血を伴う場合と、伴わない場合があります)、鉄欠乏性貧血の場合があります。リンパ管拡張症では、リンパ球減少症が一般的で、リンパ球減少症が認められない場合には、アジソン病の疑いが持たれます。
→アジソン病の解説記事

血液生化学検査

重度または慢性蛋白喪失性腸症(PLE)の特徴として低アルブミン血症が認められます。血清アルブミン濃度は、疾患の初期や効果的な代償性反応のみられる患者では、基準範囲の下限のことがある。つまりは、異常値ではなく、基準値内ではあるけれども、ギリギリ基準値内ということがあります。

グロブリンは、しばしば減少しますが、この減少には幅があり、大きく減少するとは限りません。

低コレステロールが見られることが一般的です。

低カルシウム血症(イオン化と総)と低マグネシウム血症は、リンパ管拡張症患者では一般的にみられます。これは、ビタミンDの吸収が減少したことと副甲状腺ホルモン分泌の低下を反映しています。

胃腸疾患では、肝酵素がわずかに上昇します。血清ビリルビン検査で原発性の肝疾患とは区別されます。血清ビリルビン検査が斉唱であれば、多くの場合に、肝臓から起こる疾患ではないと判断することができます。

尿検査

低アルブミン血症は、腎臓の病気としても見られることがあり、腸リンパ管拡張症とは区別されます。低アルブミン血症であり、尿タンパクが陰性であり、十分な栄養摂取ができていれば、タンパク質が腸から漏れ出したと判断することになります。

蛋白喪失性腎症でみられる低アルブミン血症は、一般に、尿検査で尿タンパク/クレアチニンの比が、5よりも大きくなります。また、蛋白喪失性腎症と蛋白喪失性腸症は同時に起こることがあります。

胸部X線検査

低アルブミン血症による胸水を認める可能性があります。また、基礎疾患(例、心臓、真菌症)が蛋白喪失性腸症の可能性に関連する変化として認められることがあります。

腹部X線検査

腹水が原因で目立たないか、漿膜の詳細が失われている可能性があります。同時に、基礎疾患(例、腫瘤や異物)が認められる可能性があります。

・腹部超音波検査(エコー)

血清アルブミンの正常値は、2.5g/dL以上ですが、これが1.5 g/dL未満ですと腹水が認められる可能性があります。他には、腸が厚くなったり(腸壁の肥厚)、正常な構造が崩れていたり(正常層構造の喪失)します。高エコーの腸粘膜が縞模様に見える場合には、乳糜管拡張が示唆されます。

限局性の腸病変が認められる場合がある。
これは、腸のある部位に限定的に起こる異常を認めることがあると言うことです。

リンパ節の腫脹があれば、炎症、真菌症、または腫瘍が示唆されます。

門脈圧亢進症の患者では、肝外シャント血管が認められる場合がある
肝外シャントとは、本来腸で養分を吸収した血液は、腸から肝臓に入ります。しかし、シャント血管という、肝臓を通らずに迂回する血管がある場合、腸から吸収された物質は肝臓で解毒されないまま全身を循環することになります。胃腸からの血液には、体に有害なものもあるために、肝臓で適切に解毒されなければ、いろいろな問題を起こすことになります。

門脈圧亢進症の患者では、肝外シャント血管が認められる場合があります。

・腹水や胸水の解析:滲出物と一致するか

腹水や胸水の成分を解析します。

・寄生虫や病原体を検出するための検便

遠心浮遊法で蠕虫卵や原虫のシストが存在するかを確認したり、生理食塩水標本で、栄養型原虫を確認します。

血清コルチゾール値を調べることで、アジソン病ではないことを確認します。

コルチゾール>2 μg/dLですと、アジソン病ではないと判断できます。

<さらに高度な検査>

直腸の掻爬検査

ヒストプラズマ症とリンパ腫を組織学的に検査することができます。

・血清葉酸とコバラミン濃度

葉酸値が低いのは、十二指腸疾患を示唆します。

コバラミン値が低いのは、回腸疾患、膵外分泌不全、胃腸の細菌の変化を示唆します。

・ヒストプラズマ抗原酵素免疫吸着解析法

ヒストプラズマ症を確認することができます。胃腸感染症がある患者では、偽陰性の結果が出ることが報告されていますので、結果の評価は慎重に行います。血清と尿を同時に検査することで、検査の感受性(精度)が上がることが知られています。

消化管内視鏡検査

腸粘膜との評価と、粘膜の生検サンプルを得ることができます。検査には、一般的な麻酔が必要です。重度の低アルブミン血症の患者では麻酔の危険が伴います。検査検体は、内視鏡で検査をすることができる胃、十二指腸、回腸、結腸から得ることができます。腸の表面、粘膜を検査することができますが、腸壁の深部の病変は検査をすることができません。少量のコーンシロップかコーンオイルを実施前に与えておくと、拡張した乳糜管の視認性が向上します。

・試験的開腹手術

腹腔全体を見ることができます。腸の漿膜面も観察でき、全層生検が診断には優位です。感染や特に低アルブミン血症患者では、腸の切除した部位が裂開する危険性があります。

治療概要→どのような治療をするの?

治療の概要

・長期的な目標は、血清アルブミン濃度を上げることです。

・確定診断待ちの間には、超低脂肪食(<2g fat/100 kcal)を給餌するのが良いので、獣医師と相談の上、与える食事を決めてください。ときに、この超低脂肪食を与えるだけで、症状が緩和し、その他の薬を必要としない犬もいます。この病気では、食事療法は特に大切です。

・患者の中には、様子を見たり経過観察をするのではなく、早急に治療介入すべき動物がいます。その場合には、次のようなことを行います。

間質への液体の蓄積を軽減する

栄養の補助を行う

血栓塞栓症による合併症を予防したり、対処したりする

電解質のアンバランスに対処する(例、低カルシウム血症や低マグネシウム血症)

治療(急性期)→どのような問題に、どのような治療をするの?

状態が悪く、急いで治療介入すべき犬には、次のような治療を行うことがあります。

・コロイド(膠質)サポート

合成コロイド(例、ヘスターチ、デキストラン)で膠質浸透圧を改善し、末梢性浮腫と腹水を制限します。開始容量は低めに設定します(例、5mL/kg/day)、なぜなら、急に量を増やすと、腸の液体が、血管腔隙に移動し、過負荷や肺水腫が起こることがあるからです。

血漿は、適度な膠質をサポート(補助)するが、有用な量のアンチトロンビンのような、天然の抗凝固成分を供給する可能性は低く、アルブミン投与は、一過性のコロイド(膠質)を供給するに過ぎなので、慎重に行います。

・電解質障害

重度の低カルシウム血症の患者は、マグネシウムが補給されない限り改善しない可能性があります。晶質(クリスタロイド)は慎重に投与し、コロイドを同時に使用して血管外液の蓄積を最小限に抑える必要があります。

・腹腔ドレナージ/胸腔穿刺

胸水で呼吸困難が見られる患者には、胸水を抜去します。

・栄養補助

全部または一部の非経口栄養は、栄養を吸収できない患者に暫定的な栄養補助を提供します。

治療(慢性期)→一般的な治療

・基礎疾患のコントロール

蛋白喪失性腸症の効果的な治療は、基礎疾患をコントロールすることです。蛋白喪失性腸症が原発で、基礎疾患のない患者には適応できない可能性があります。特に、腸リンパ管拡張症では難しいことがほとんどです。

・特発性炎症性腸症(IBD)患者への免疫抑制剤に使用

グルココルチコイドは、薬物療法の中心的な薬です(例、プレドニゾロン 1-2mg/kg PO q12h、漸減し、効果のある最低容量にする)。重度の低アルブミン血症の犬は、十分に反応しない可能性があります。

ブデソニド0.5-3mg/dog q24h は、医原性クッシング症候群の発生を最小限にするために使用することができます。

難治性や長期治療が必要な患者には、されなる免疫抑制剤(例、クロラムブシル、シクロスポリン、アザチオプリン)が必要になることがありますが、免疫抑制剤単独では、プレドニゾロンを超える効果は期待できないことがあります。

・グルココルチコイド±その他の免疫抑制剤

グルココルチコイドと免疫抑制剤の併用が、リンパ管拡張症患者には有用になる可能性があります。リンパ管内の脂肪が腸から漏れ出して起こる脂肪肉芽腫の形成とリンパ管炎を減少させると考えられています。

隣接する組織へのカイロミクロンの放出によって引き起こされる炎症は、リンパ管の拡張、機能不全、および漏出を悪化させます。

・タイロシンによる抗生物質療法

腸内毒素症の制御に役立つ可能性があります。

・血栓塞栓症の予防

この治療は、外科的処置の前に中止する必要があります。

・利尿薬

胸水や腹水などの空洞性滲出液を迅速に減少させることはできませんが、これらの増える速度を遅らせる可能性があります。

食事療法


・超低脂肪食

脂肪の吸収不良と乳糜管の流れを最小限に抑えるために、腸リンパ管拡張症の患者には超低脂肪で消化しやすい食事を与える必要があります。以下、レシピ例。

カッテージチーズ(脂肪1%)、ティラピア、無脂肪の鶏肉の胸肉を炊いた白米と1:2で混ぜると、食事療法の開始時の食事としては最適です。脂肪からの代謝エネルギーが2g/100kcal未満の消化性の高い療法食も適しています。

・加水分解タンパク質または新規抗原食

IBDを併発している患者には、加水分解タンパク質または新規抗原食を検討する必要があります。このカテゴリーのほとどの食事は、リンパ管拡張症の患者に対して十分な脂肪制限ができていません。自家製の食事または脂肪が制限されている加水分解タンパク質の食事を検討してください。

・グルテンフリーの食事

グルテン過敏性腸症が疑われる場合には、グルテンフリーの食事を提供する必要があります。しかし、このような犬は多くはありません。

・経腸成分栄養製剤

易感染性患者には、経腸成分栄養製剤が有効になる可能性があります。このような食事には、損傷を受けた消化管からの栄養素の摂取を促進するための遊離アミノ酸が含まれています。低脂肪製剤は、リンパ管拡張症の犬に適しており、小径の栄養チューブで与えることができます。

・シアノコバラミン(ビタミンB12)

コバラミンの血清濃度が異常であれば補助的に与えます。ビタミンB12である、シアノコバラミン 250-1000μg/patient を皮下投与 7日間毎で6週間、その後3-4週間、または250-1000μg 経口投与24時間毎、患者の大きさによる

・葉酸

葉酸の血清濃度が異常であれば、サプリメントを与えます(0.5mg/patient、経口投与24時間毎)。

・ビタミンやミネラルのサプリメント

リンパ管拡張症の犬は、脂溶性ビタミン(D、E、K)の取り込みがうまくできないので、ビタミンやミネラルのサプリメントが必要になることがあります。

ビタミンDのサプリメントは、高容量にならないように注意して与える必要があります。

0.5-2gの元素カルシウムを含むカルシウムサプリメントと水酸化マグネシウム5-15mlを含むサプリメントが必要になる可能性があります。

合併症→腸リンパ管拡張症に続いて起こる可能性がある病気

・免疫抑制

免疫抑制剤の使用中に、もし感染が存在していたら、悪化することがあります。手術部位が治っていなければ、グルココルチコイドは差し控える必要があります。また、長期間のグルココルチコイド療法では、医原性クッシング症候群が起こることがあります。

・血栓塞栓性疾患

呼吸困難、神経症状や破行が見られる可能性があります。手術後であるとか、出血が続いているなど、特別に禁忌でなければ、蛋白喪失性腸症の全ての患者に抗血栓療法を検討することになります。また、使用中のグルココルチコイドは血栓塞栓症リスクを下げます。

・呼吸困難

重度の腹水や胸水の場合には、腹腔穿刺や胸腔穿刺の必要があります。蛋白喪失性腸症による肺血栓塞栓症によって呼吸困難が起こることがあります。

定期検査→どのような定期検査が推奨されるの?

定期検査では、以下のような項目を確認します。

・血清アルブミン濃度(他に、低アルブミン血症を起こす疾患がないとした場合)

・カルシウム(イオン化の測定が望ましい)とマグネシウム濃度

・骨髄抑制のかかる製剤を使用している場合には、CBC(全血球数算定)

・組織間液の蓄積を見るために体重を定期的に測定する

予後→腸リンパ管拡張症になったら、その後どうなるの?

・リンパ管拡張症だけが主な病態で、食事療法によく反応すれば、予後は良いものです。しかし、多くの場合、腸リンパ管拡張症は、生命予後に影響することが多い疾患で、常に注意が必要です。

・IBDに続発するタンパク漏出性腸症の患者は、可から要注意です。

・免疫増殖性腸疾患に罹患したバセンジーは、要注意から良くないと考える必要があります。

・リンパ管拡張症のヨークシャーテリアは、長期的には要注意、なぜなら二次性脂肪肉芽腫が難治性の機能障害を起こす可能性があります。

・消化管真菌感染症や腫瘍性疾患の予後は、要注意から深刻な場合が考えられます。

・ビタミンD欠乏症の予後は良くありません。