犬ヘルペスウイルスは、二本鎖DNAウイルスでヘルペスウイルス科に属し、エンベロープを持つので、さまざまな消毒剤で不活化できます。犬科動物にだけ感染し、比較的一般的な感染症を引き起こします。感染は、生まれる時に母犬の胎盤をつうじて、また、感染した同腹仔との接触など、犬と犬の間で起こります。環境中では不安定なので、何か物を介して感染することは稀です。病気が起こると、妊娠犬に流産を起こしたり、生後3週齢未満の仔犬に血便を起こしたりします。仔犬を37℃ほどの暖かい環境に置くことで、罹患率や死亡率を下げることができます。予防のために感染犬からの隔離と消毒を行います。
国内の法律では、生後56日齢(8週齢)以下の仔犬や仔猫の販売が禁止されています。生後3-5週齢未満の仔犬の病気をみるのは、限られた人になります。
犬ヘルペスウイルス感染症から回復した雌犬は、問題なく子育てをすることができますが、以降の繁殖には使わないことが推奨されます。
犬ヘルペスウイルスは、犬と犬との接触によって感染します。新生児感染は、出産時に、母犬から経胎盤的であったり、膣分泌物への接触だったりで起こります。また、感染をした同腹仔との接触で発生し、生後3週間が最も一般的です。
このような症状は見られませんか?
- 流産、死産、虚弱な胎児
- 3-5週齢の子犬に見られる血便
- 3-5週齢の子犬に見られる運動失調
- 3-5週齢の子犬に見られる失明
症状
<新生児感染>
稀なことですが、経胎盤感染によって、流産、死産、新生仔の虚弱、そして、新生児感染症で命を落とす犬もいます。新生仔感染は、出生時の母動物の膣分泌物や感染した同腹仔への暴露を介して発生します。生後3週間が一般的です。
<3-5週齢の仔犬>
3-5週齢の仔犬の症状の多くは、それほど深刻ではありませんが、中には、三叉神経症、運動失調、失明などの神経学的症状がみられることがあります。
<成犬>
成犬は通常無症状です。しかし、元気に見える雌犬でも、不妊、流産、死産がみられることがあります。オスとメスの両方に、性器に病変がみられることがあります。その病変は、再発をする丘疹小胞性病変としてみられます。
診断
<臨床病理学的検査>
血液サンプルを採取することが困難だったり、結果が非特異的だったりするので、新生児の検査はあまり有用ではありません。非特異的とは、他にも同じような検査結果になる病気があるために、得られた検査結果で犬ヘルペスウイルス感染症だけを断定することが難しいということです。
仔犬では、血小板減少症や肝酵素、特にALT、GPT活性の増加がみられることがあります。
<犬ヘルペスウイルス特異的検査>
感染が疑わしい仔犬の組織からウイルスが分離されれば、診断が可能です。
<血清学的検査>
血清学的検査は、ウイルスに曝露した犬には適応できますが、成犬がいつ感染をしたのかを診断する事はできません。
血清学的検査とは、ウイルス感染をした犬の血液中に現れる、犬ヘルペスウイルス特異的抗体というものを調べることで、感染をしているか否かを診断できます。
似たような病気
犬ヘルペスウイルス感染症と同じような症状がみられる病気には、次のようなものがあります。
<新生仔死がみられる病気>
・細菌性敗血症:サルモネラ、ブドウ球菌
・他のウイルス感染症:犬パルボウイルス感染症、ジステンパー
・原虫疾患
<流産、死産がみられる病気>
・ブルセラ、レプトスピラ、細菌性子宮炎、ジステンパー、原虫疾患、内分泌障害
治療
補助療法は通常役に立ちません。皮下点滴や、静脈点滴を行います。その他には、栄養の補助、犬の保温、広域抗菌薬を使うことがあります。
回復した犬から得られる高度免疫血清は、5週齢未満で同腹仔がいるならば、その仔犬に使うことで回復が期待できます。
新生仔の症状が、急速に進行した場合には、抗ウイルス療法の効果は期待できません。
感染した成犬は潜在的に感染したままです。一度感染したら、その犬の体内から、犬ヘルペスウイルスを完全に排除する方法はありません。
経過観察と予防
仔犬は、37℃ほどの暖かい環境に置かれると、罹患率や死亡率が下がります。感染から回復した雌犬は、繁殖に使わないことが推奨されています。感染犬では、流産や死産がみられることがあるからです。
犬ヘルペスウイルスを排泄している犬と、仔犬は隔離し、仔犬のいる環境は適切に消毒し清潔に保つようにします。犬ヘルペスウイルスは、ほとんどの消毒薬で不活化できます。身近な消毒薬には、アルコールや次亜塩素酸ナトリウムがあります。
ヨーロッパでは、ワクチンが使用できますが、日本国内で使用できる犬ヘルペスウイルスワクチンはありません。