もしも犬の心臓が止まるようなことがあったら、蘇生処置を希望するのか、しないのかは予め決めておく必要があります。大切なことですので、ご家族みなさんでお話をする時間を作っていただくのが良いと思います。
このことは、心臓が止まってからでは間に合いませんので、それまでに、お考えになってもいなかったし、相談もできていなかったとなりますと、もしもの場合には、まずは蘇生処置を進めることになると思います。
ここで大切ことがあります。おそらく最も気になることだと思います。
犬や猫の心停止から、どれくらいの回復率が期待できるのかということです。犬であれば、5-6%、猫であれば、6-9%とされています。犬の場合で、心臓が止まってしまって、心肺蘇生を始めた場合、その心臓が再度動くようになるのは、おおよそ20匹に1匹の割合だということになります。そして、そのまま退院して、もとの生活を送れるようになるのは、もっと少ないことです。
そして救命率は、心臓が止まってから、時間が経つごとに減ってきます。ヒトの場合ですと、心停止から8分で蘇生率は20%ですが、心肺蘇生法と除細動器(AED)の使用で50%まで高まるとされています。
この記事でご紹介するのは、犬や猫の心肺蘇生法とはどのようなことをするのかをご紹介いたします。
一次救命処置と二次救命処置があります。大まかには、心臓マッサージや人工呼吸は一次救命処置で、お薬を使った救命処置が、二次救命処置と呼ばれるものです。二次救命処置でお薬を使う場合は、現実的には抹消血管と呼ばれる静脈注射を行うことになります。それ以外には、気管内投与を行うこともあります。
現実的という表現を使うのは、心臓が止まって救命処置で薬を使う場合、最も理想的な投与方法は、中心静脈から薬を入れる方法です。中心静脈とは、体を一回りして心臓に戻ってくる血管には、頭側から戻ってくる血管と、お腹側から戻ってくる血管があって、これらのことを言います。しかし、中心静脈に薬を入れる場合には、中心静脈カテーテルという細い管を使うのが普通です。これを心臓が止まってから設置することは現実的ではありません。時間がかかる作業なのです。そのような訳で、最も理想的ではありながら、何かしらの理由で、既に中心静脈カテーテルが設置されている場合を除いては、使われることはほぼないでしょう。
そして、救命処置として、心臓マッサージと合わせて、イメージされるのは、除細動器ではないでしょうか。テレビドラマや映画などで、ドクターがパドルと呼ばれる電極を患者さんの胸に当てて、「離れて!!」とか、海外ドラマですと、「クリアー!!」などと言って、周りの人に注意を促してから、バーンと電気ショックを与えるものです。
これは、心臓が完全に活動を止めてから使うものではありません。
このあたりのことを少し掘り下げます。
除細動器と呼ばれる機械は、細動を呼ばれる心臓の動きに対して使われるものです。
細動とは、細く動くと書きますが、心室細動とか、心室頻脈という状態で使われるものです。
大まかな表現をしますと、心臓が痙攣して、小刻みに震えるのが心室細動を呼ばれる状態です。そして、心室と呼ばれる心臓の部位が興奮状態となって、血液のほとんどを心臓から送り出すことができなくなるのが心室頻脈と呼ばれる状態です。
このような変化が起こった場合には、除細動器が役立ちます。
逆に、心電図の波形が、ピーと直線になっている場合は、除細動器を使う場面ではありません。心肺蘇生として、心臓マッサージと人工呼吸、そして薬の投与をすべきです。ちなみに、このピーという直線状態を心静止と呼びます。
心肺蘇生法は、ドクターや看護師さんが一生懸命に頑張ってくれても、蘇生率がどうしても低いものです。愛する犬猫に対して心臓マッサージが始まったときに、5-6%の回復率を意識することは大変困難でしょう。このことは、もし心停止が起こったら、獣医師に蘇生処置を依頼するかどうかを決めるための判断材料になるかも知れません。