本来、犬の体から出る副腎皮質ホルモンの量が少なくなることで起こる病気です。犬ではしばしば見られます。
私の印象では、特徴的な症状が少ないために、診断に時間がかかることがあるということです。
副腎皮質機能低下症(アジソン病)の主な症状
元気がなくなる、体重が減少する、食欲が低下する、嘔吐、下痢、血便、多尿、乏尿、徐脈、低体温、震え、痙攣など
これらの症状は全て、副腎皮質機能低下症(アジソン病)だけで見られるというよりも、いろいろな病気で見られるものばかりです。そこで、血液検査には、副腎皮質機能低下症(アジソン病)を疑わせるような所見が見られることがあります。
血液検査での電解質異常です。
血液検査を受けたことがあるならば、電解質も検査をされたことがあるかも知れません。この中の、ナトリウムが低下、クロールが低下、カリウムが上昇というのが副腎皮質機能低下症(アジソン病)の典型的な変化です。
しかし、当然のことながら、これらの異常は副腎皮質機能低下症(アジソン病)だけで見られるわけではありません。そして、副腎皮質機能低下症(アジソン病)には、電解質異常を伴わないものがあります。
電解質異常が見られる病気(副腎皮質機能低下症(アジソン病)の鑑別疾患)
ナトリウムが低下、カリウムが上昇する病気
腎不全、アジソン病、糖尿病
カリウムが上昇する病気
腎不全、アジソン病、糖尿病、組織の損傷、熱傷など
ナトリウムが低下する病気
嘔吐、下痢、腸閉塞、心不全、腎不全、肝硬変、利尿薬によるもの、ネフローゼ症候群、甲状腺機能低下症、糖尿病、心因性多飲
これらの病気では、電解質異常が見られますので、副腎皮質機能低下症(アジソン病)との鑑別が必要になります。
一度、副腎皮質機能低下症(アジソン病)を疑った場合に、確定するための検査は、ACTH刺激試験と呼ばれるものです。できるだけ空腹時の午前中に検査を行うようにしています。
まずは採血を行います。次に、テトラコサクチドを注射し、その1時間後に再度採血を行います。この2回の採決では、コルチゾールというものを測定します。その結果を見て診断をします。
診断ができれば、後は治療です。フルドロコルチゾン酢酸エステルという薬を与えることになります。多くは、1日に2回与えることになるでしょう。
副腎皮質機能低下症(アジソン病)は、若い犬から、壮年までの中で発症することが多く、ほとんどは特発性として、明確な原因は不明です。
そして、国内では、特別に起こりやすい犬種はありません。どの犬種も副腎皮質機能低下症(アジソン病)になる可能性があります。
またアジソンクリーゼと呼ばれる、副腎皮質機能低下症(アジソン病)による突然のショック(循環不全)が見られることがあります。これは緊急処置が必要で、ときに命に関わります。
そして、このアジソンクリーゼもまた、他のショック(循環不全)と区別がつきにくいものです。それを区別する場合には、血液検査で電解質を測定することになりますが、ここにもまた電解質異常を伴わない副腎皮質機能低下症(アジソン病)を考えなければならず、診断を困難にす場合があります。
ショック(循環不全)が起こると、多くの場合には、ステロイドを使うことになります。結果として、副腎皮質機能低下症(アジソン病)の治療にはステロイドを用いますので、診断が立たなくても、犬の状態を改善させることができるかも知れません。
ちょっと細かい話ですが、副腎皮質機能低下症(アジソン病)の診断には、ACTH刺激試験という検査を行いますが、まずはベースラインのコルチゾールというものを測定します。これが2.0μg/dl以下であれば、まずは副腎皮質機能低下症(アジソン病)を疑っても良いとされます。これはACTH刺激試験ではありませんので、仮の診断を立てたら、最終確認はこのACTH刺激試験を行うことになります。
副腎皮質機能低下症(アジソン病)は、特別な症状がなく、診断を行うためには、同じような症状をみせるいろいろな病気から、一つずつ検査を進めていかなければならいことがあります。
それでも、初期治療に反応して、犬が安定していれば、寿命を全うできる病気です。