【犬の白内障、その後】獣医師が解説します。

犬の水晶体が白く濁る白内障が進行すると、ぶどう膜炎という炎症が起こります。これは、白内障のある眼のいわゆる白目の部分が充血をするものです。ぶどう膜炎には、判断が困難なものもありますので、白目が充血しているかというだけではぶどう膜炎があるかどうかを明確には判断できないのですが、最も分かりやすい所見としては、白目の充血をみると良いということです。

犬の白内障は、ほとんどが遺伝的な病気です。そして、自然には治りませんし、目薬で治療ができるわけでもありません。積極的に視覚を回復させるためには、外科手術が唯一の方法です。

これも、適応があります。つまりは、白内障の犬であれば、どのような状態の犬でも外科手術で視覚が回復するわけでもないわけです。例えば、網膜疾患がある場合は、そもそも白内障で白く濁っている水晶体を外科手術でクリアにしても、回復困難な場合もあります。

では、犬の白内障で、外科手術を選択しなかった場合、これは、外科手術をすれば視覚が回復するけれども手術を選択しなかった場合や、手術には前向きだけれども、手術をしても視覚回復が困難だという事前検査の結果が出たから手術を選択できないという場合もあるでしょうが、その場合には、何もできることはないのでしょうか。

結論から言いますと、白内障に続いて起こる、ぶどう膜炎という病気を予防する必要があります。多くの場合には、1日2回の目薬が効果的です。

今回の記事では、このことについて深掘りします。

白内障で白く濁るのは、水晶体を呼ばれる組織です。この水晶体は、眼球の中にあるわけですが、この眼球内に白内障となった水晶体を構成するタンパク質が漏れ出ることで、その水晶体タンパク質に反応して起こる炎症があります。

この炎症をぶどう膜炎と言います。このぶどう膜とは、眼球内の組織で、虹彩、毛様体、脈絡膜と呼ばれるもののことです。ここが炎症を起こします。

水晶体成分に眼が反応して起こるぶどう膜炎には、いくつかの分類があります。ヒトの場合には、3つに分類され、犬の場合には、2つい分類されます。

ヒトの水晶体起因性ぶどう膜炎は、水晶体過敏性眼内炎、水晶体毒性ぶどう膜炎、水晶体融解性緑内障の3つに分類されます。

犬の場合には、水晶体破碑性ぶどう膜炎、水晶体融解性ぶどう膜炎の2つに分類され、一般的に白内障で多く見られるのは、水晶体融解性ぶどう膜炎です。

この水晶体融解性ぶどう膜炎は、水晶体の皮質と呼ばれる部位が液化します。水晶体タンパク質は、眼球内では異種タンパク質としてみなされ、いわゆる眼球内の異物という扱いを受けることで炎症が起こります。

この炎症で起こるのは、毛様充血、虹彩腫脹、眼疼痛というもので、これらは把握されにくい変化です。それ故に、これに気づかれずに白内障手術が実行されると、成功率が下がるとされています。

では、なぜ水晶体タンパク質が眼内では異物とみなされて、ぶどう膜炎が起こるのでしょうか。これには、諸説あります。

水晶体は、水晶体嚢と呼ばれる薄い膜に覆われています。この構造の中に封じ込められるようにあるのが、クリスタリンと呼ばれるもので、これが水晶体嚢の中にあるうちには、眼内には何も起こりませんが、水晶体嚢から溶け出して嚢外に漏れ出すことによって、異物反応、いわゆる抗体抗原反応として、ぶどう膜炎が起こるという説があります。

このクリスタリンは、まだ眼が異物と判断する働きを獲得する、胎児の段階に水晶体嚢に中に封印されるもので、これが、免疫の仕組みを得た後の成犬になったときに封印んが解かれたように水晶体嚢外に漏れ出ることで、異物扱いを受けて、眼に炎症が起こるという説です。

この白内障原性ぶどう膜炎は、効果的な目薬があります。これで治療をしたり、予防をしたりします。それでも防ぐことのできないぶどう膜炎が進行すると、その後に起こる可能性があるのは、緑内障です。

緑内障は、非常に辛い痛みを伴う病気で、確実な治療方法はありません。出来るだけ白内障が発見された段階で、まずはぶどう膜炎に予防処置を始めることは、後に起こる可能性のある緑内障の予防にもなると考えられます。

白内障に手術はしないのだと、あるいは、できないのだとした場合には、ぶどう膜炎を警戒し、予防と治療を進めることが推奨されます。