【犬の急性腎不全】その原因は何?獣医師が解説します。

治ることもあるし、治らないこともあります。そして、高額な治療費がかかることが多い病気です。

犬の急性腎不全には、尿が全く出なくなる無尿と、少しは出るが少ない乏尿と、そして、いつもよりも多めに出る多尿があります。急性腎不全の犬に無尿、乏尿、多尿のどの症状がみられるかで、今後の予後がこちなります。

犬の急性腎不全は、完全に無尿になったら助かる可能性は、かなり低くなります。無尿にならなかったら、助かる可能性があります。腎臓の再生と回復期を迎えられたら、概ね良好です。どうにか治る可能性がありますが、数週間の治療期間と高額な治療費が必要になることがあります。

急性腎不全の犬は、回復する可能性が6から8週間はあります。尿が全く出なくなると、回復が困難です。

犬の急性腎不全が起こる原因

主な原因には、腎臓の虚血腎毒素原発性腎疾患全身性疾患です。概要とやや詳細をご紹介します。

腎臓の虚血:虚血とは、いわゆる貧血です。全身に起こる貧血とは異なり、ある臓器に起こる貧血というイメージです。ここでは、腎臓に起こる貧血、すなわち、腎臓に流れ込む血液が減るということです。この腎臓の虚血は、どのようなことから起こるのでしょうか。

→腎臓の虚血の原因:低血圧、重度の脱水、低循環、腎臓の低灌流、腎臓の血管における血栓・微小血栓、腎血管断裂、高血圧です。

腎毒素:腎臓にとって、あるいは犬の体にとって毒となるものによって、急性の腎不全が起こることがります。

腎臓に対して毒性があるものがあります。これを摂取することで、必ず急性腎不全になるわけではありませんが、急性腎不全の原因として、注意が必要です。

鎮痛剤、駆虫剤、抗真菌薬、抗菌薬、抗ウイルス薬、ACE阻害剤、利尿薬、各種薬剤、麻酔薬、抗がん剤、免疫抑制薬、重金属、各種(毒性のある)物質、有機化合物、色素、など

詳細な薬品名は、このようなブログサイトでは紹介できなくなっていますので、また別サイトでご紹介いたします。

ここで大切なことは、例えば鎮痛剤を犬に与えると急性腎不全が起こるかと言いますと、もちろん違います。薬は、しっかりと実験や検査を行った上で市場に出ていますので、高確率で急性腎不全が起こる薬剤というものはありませんし、そうならないように、注意がされています。

上に書いてある薬剤を使う時には、獣医師は薬剤の添付書類を把握しているはずです。先の例で言いますと、鎮痛薬は、連続して使える日数が限られていることがほとんどです。

4日間以上は連続して使わないようにとか、食欲が落ちるようなら、犬に与えるのをやめましょうとか、です。それを超えて鎮痛薬を与えることを用法外使用と言い、本来の使い方ではないのですが、というお断りをするべきだとされています。

ときに、鎮痛薬を使う場面では、外科手術を行うか、鎮痛薬で痛みだけを和らげるか、などの選択が迫られていることが多く、4日間だけで解決できる痛みというのはむしろ少ないわけです。

そうなると、副作用が見られる可能性を受け入れた上で、用法外使用をすることも考えられます。高齢犬の関節痛は、手術をするか痛み止めを使うかという選択が必要な一例ですが、高齢が故に、手術という選択が困難で、でも、痛みを止めてあげたいというもどかしいものです。

→→各種(毒性のある)物質とは、ぶどう、レーズン、きのこの毒、蜂の毒、などです。

→→有機化合物とは、除草剤や農薬などですが、これらは雑草や植物に使われますので、犬が散歩中に草を食べるときに一緒に口にすることが考えられます。

急性腎不全の症状

尿量が増える、尿量が減る、嘔吐、下痢、食欲がなくなる、昏睡、沈うつ、など

原発性腎臓疾患:これは、腎臓に起こる病気によって、腎不全になるものです。それ以外には、腎臓以外の病気が腎不全を起こすことがあります。

原発性腎臓疾患には、腎盂腎炎、レプトスピラ症、犬伝染性肝炎、免疫介在性疾患、リンパ腫などがあります。

→→腎盂腎炎は、犬がオシッコをする段階であれば治せることが多いので、早期の治療が必要ですが、入院による治療が必要になります。

→→犬のレプトスピラ症については、別記事をご覧ください。

全身性疾患で急性腎不全:敗血症、バベシア症、細菌性心内膜炎、膵炎、心不全、低体温、高体温、熱傷、輸血反応、全身性エリトマトーデス、肝腎症候群、播種性血管内凝固(DIC)などです。

敗血症:感染症から多臓器に障害が起こるもので、生死に関わる状態です。この敗血症によって、急性腎不全が起こることがあります。

バネシア症:マダニが媒介する病気です。血液中の赤血球に寄生する原虫です。溶血性貧血と呼ばれる、血液が壊れることで起こる貧血が主な症状です。治療が遅れると死に至ます。また、急性腎不全の原因になることがあります。

全身性エリトマトーデス:ヒトでは、指定難病とされているようです。関節、皮膚、腎臓、肺、中枢神経などに炎症を思わせるような症状が起こります。原因はわかっていませんが、免疫の異常が疑われています。

輸血によっても、急性腎不全が起こることがあります。

播種性血管内凝固につきましては、別記事をご覧ください。

急性腎不全が疑われたら、類似した症状を見せる他の病気ではないのかを精査しなければなりません。いわゆる鑑別診断と呼ばれるものです。

急性腎不全の鑑別診断リスト

腎前性高窒素血症、腎後性高窒素血症、糖尿病、副腎皮質機能低下症(アジソンクリーゼ)、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、子宮蓄膿症、慢性腎不全、肝機能不全、門脈体循環シャント、下垂体性尿崩症、心因性多飲症など

副腎皮質機能低下症(アジソンクリーゼ):別記事をご覧ください。

副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群):別記事をご覧ください。

子宮蓄膿症:別記事をご覧ください。

このように様々な原因が考えられますが、特定できる場合と、特定困難な場合があります。そして、高額な治療費がかかりながら、治らないこともある病気です。