【犬の嘔吐と下痢】吐くし、下痢をするし。獣医師が解説します。

犬のパルボウイルス感染症

犬のパルボウイルス感染症は、特に子犬で重篤な症状をみせることがあります。吐く、下痢をするという症状がみられ始めてから24時間以内に死亡することもあります。

どのような症状がみられるますか?→急性的な嘔吐、下痢、元気消失、発熱です。その結果、脱水を起こします。血液の中にはある白血球の数が減ってきます。私の体験では、白血球の減少は発症から2-3日くらいで始まります。通常は1マイクロリットルという量の血液の中に少なくとも8000個の白血球がありますが、これがだんだんと減っていき、500個を下回ることがあります。500個まで下がるのに、発症から5日ほどかかります。そして、そこまで下がった子犬は、死亡することがほとんどです。

どのような治療をしますか?→ほとんどの犬は脱水がみられますから点滴が必要です。嘔吐や下痢で血液中のカリウム濃度が下がっていることもありますので点滴で補正します。子犬が食事もとらず、嘔吐と下痢を起しますと、血液中の糖が不足していきます。低血糖と言われるものです。この時には、点滴で糖も補正します。全ての犬で嘔吐もみられますから、吐き気どめ、そして、抗菌薬、などを使います。その他、栄養補給を行います。

原因は何?→パルボウイルスの感染で起こります。感染犬の吐いた物や糞便が口や鼻から入ることで感染します。ウイルスが犬の体に入ってから、症状がみられるまでの期間、潜伏期は3日から7日です。

パルボウイルス感染症とワクチン接種回数

最近はこの病気にかかる子犬の数が減ってきている印象があります。が、しかしとても怖い病気です。はっきりとしたデータはありませんが、私の治療体験では、混合ワクチン接種を1回も受けたことがない子犬がかかると、ほぼ回復してくれませんでした。1回は受けているとしても、半々くらいの確率で、助かる犬、助からない犬があります。おおよそ生後3か月目くらいに打つ2回のワクチンが終わっていると、様々な治療をしなければなりませんが、どうにか回復してくれる子が多かったという印象です。それでも亡くなる犬はいます。

パルボウイルス感染症とご家族

犬のパルボウイルス感染症の悲しいところは、その亡くなり方です。多くはペットショップやブリダーさんから、家族に迎えたばかりの子犬に重篤な症状をもたらします。病気が見つかるのは、家族に迎えた日から2週間以内で、多くは1週間以内です。新しい家族を迎えて子犬が元気にはしゃいでいて、家庭全体が笑顔に包まれている頃に、心身に大きな苦痛を伴うできごとが起こります。治ればいいのですが、それで死亡もありえますので、迎えた喜びから一転して気持ちが谷底に突き落とされます。

ペットショップやブリーダーの反応

では、現実問題として、飼い始めたばかりの犬が回復不可能な状態になった場合、子犬を家族に引き渡したペットショップやブリーダーは、どのような反応をするのでしょうか。とても良心的に対応してくれるところがある一方で、とても冷たい反応しかしてくれないところもあります。保険で治療費を含めて、全てをカバーしてくれるところもありますし、飼い主の手に渡ってからのできごとだから、何も保証はしないというところもあります。

こんなペットショップもありました

ペットショップやブリーダーは、懇意にしている動物病院があるものです。そこでは、治療費も安くしてもらっていますし、ある意味味方になってくれます。一方で、犬を引き渡した家族が、別の動物病院に連れて行くと、治療費の割引もないし、味方にもなってくれない可能性があります。まあ、それも自然です。私が治療をしていたパルボウイルス感染症の子犬を販売したペットショップは、私に業者価格で治療をしてくれと言いました。何もおつきあいのないペットショップでしたが、懇意にしている動物病院い移動させるとは言いませんでした。しかし最終的に子犬が死亡して飼い主さんが悲しんでいるところで、このペットショップの責任者が言い放ちました。パルボウイルス感染症というのは簡単な検査結果を見て私が思っているだけで、実際にウイルスは見ていないだろうと。つまりは、ペットショップ側には責任があるかはわからないということを言い始めました。

インフルエンザの検査をされた方はご存知だと思いますが、あれも簡易キットを使います。ウイルス粒子を観察するのは、電子顕微鏡を使わないとできません。ですから、インフルエンザの検査で陽性反応がでたヒトに対して、簡易キットを使ってそのような結果が出ただけで、実際にウイルスを見てはいないのだから、インフルエンザ感染については、確定的ではないと言うようなものです。

屁理屈です。

つまりは、パルボウイルス感染症は、ペットショプもブリダーもかなり慎重になっている感染症と言えます。動物病院でも、見過ごすと大変なことになりますから、当然慎重です。購入時に加入した保険があれば、お金の面ではどうにかなるでしょうけれども、迎い入れた時の喜びを再現することは困難です。何かしらの不安が付きまといます。

治療が必ず成功する訳ではありません。予防が大切で、ワクチン接種ワクチン抗体価検査がもっと浸透して、悲しむ方々が減ることを望んでいます。