怖くない血便と怖い血便があります。
犬の血便の多くは、あまり心配のいらないものですが、まれなことですが、ときにとても怖い病気もあります。出血性胃腸炎は、概して予後の悪い病気です。回復しない(死亡する)ことがあります。
どのような症状がみられますか?→急に起こる、嘔吐、吐血、血便、下痢です。赤いジャムのようなものが出てくることがあります。しぶりと言って、がんばってがんばって、ちょびっとしか出ないような下痢をすることもあります。
どのような犬にみられますか?→幼犬に多い病気です。
原因はなんですか?→原因はわかっていません。腸のアレルギー反応、クロストリジウム(Clostridium perfringens)という細菌の毒素などが報告されています。
どのような治療をしますか?→点滴、抗菌薬、吐き気に対する薬、播種性血管内凝固(DIC)に対する治療などを行います。原因療法、対症療法を進めていきます。
治りますか?→治ることもありますが、治らない(死亡する)こともあります。
出血性胃腸炎は、急性に発症します。かなり激しい血便と吐血がみられることがあり、ときにいちごジャムのようなものが出てくることがあります。
犬には沈うつと脱水がみられます。大量に血便が出たり吐血したりすることで、血液を多く失ってしまいます。それによって、体を巡っている血液量が少なくなり、循環血液量減少性ショックを起こすことがあります。
ちなみにショックとは、循環不全により、細胞の代謝障害や臓器障害が起こり、生命の危機に至る急性の症候群のことを言います。医学用語です。
「私昨日すっごくショックなことがあってー」のショックとは、別物と考えてください。
生命の危機、すなわち、死に直結する変化が起こります。
重い脱水も起こりますので、血液検査で程度を把握してから点滴をします。通常は、丸々1日から2日間ほどは最低でも点滴が必要になることが多いですね。脱水が改善するまでは点滴は必要です。そして、ちょっと具体的なことを書きますと、下痢と嘔吐で血中のカリウムが減りますので、それも補正が必要になります。
多くの場合、犬に血便があっても、その多くは出血性胃腸炎ではなく、かなり速やかに治るのですが、私はそのような場合でも、一応クロストリジウム(Clostridium perfringens)対策はするようにしています。学生時代のこの体験によるものです。
抗菌薬は、ターゲットにする細菌によって使い分けるべきですが、出血性胃腸炎は急性の変化ですので、細菌培養をして原因菌を特定してから治療をするような余裕はありません。したがって、想定される細菌に対しての治療をすぐに始めなければなりません。
通常は、クロストリジウム(Clostridium perfringens)に対する抗菌薬を選ぶことが多いと思います。
吐き気どめは良いお薬があり、多くの吐き気には対応できます。できるだけ脱水が治った後に使うことが多いのですが、注射をするとおおよそ1時間後くらいから効果がみられ、24時間ほど持続するお薬があります。
ときに播種性血管内凝固(DIC:Disseminated intravascular coagulation)というものが起こることがあります。これ自体も命の危険のあるもので、死亡することがある病態です。
この播種性血管内凝固(DIC)は、色々な病気で起こることがあり、ある程度の予防がなされますが、それでも起こってしまうことがあります。
そうして、とても小さなあ血栓が身体中にたくさんできることで多臓器不全に至ります。
この出血性胃腸炎でも、播種性血管内凝固(DIC)が起こる可能性があります。
どうにか脱水が解消され、嘔吐も下痢も治まってきたら、だんだんと食事を再開していきます。犬が自ら食事を摂るようになり、嘔吐がみられなければまずは良い兆候です。ここまでくれば治ってくれると思いますよ。